「頭がいい訳ないだろ? 俺は凡人だよ、凡人」

禅は、そう謙虚に言った賢一を見て思った。
“こいつの努力は半端なものではないだろう”

禅は愚問と思ったが、あえて聞いた。
「お前、進学するのか?」

賢一は禅の顔を真面目な顔をして見た。その眼差しは怖いほど真剣だった。
「俺の家は貧乏だからな……勉強して、奨学金で国立大学に入るよ、そう決めたんだ」

禅は、賢一の勉強に掛ける並々ならぬ執念を感じた。

“こいつの努力に比べたら俺の努力は……?”
そんな不安な気持ちになった。そんな気持ちを消すように、そして、まるで自分に言い聞かせるように言った。

「俺も大学に行く、そして、もっとバスケの腕を磨く、そしてアメリカに行ってプロになる!」

確信はなかった……ただ、賢一の並々ならぬ決意に押され、思わずそんな夢のような事を言ってしまった。

賢一は微笑んだ。
「すごいな、お前なら出来ると思うよ、頑張れよ」
「ああ、お前もな」

二人は握手すると別れていった。

そして、禅と賢一は大学に合格した。禅はバスケットで、見事全国大会二連覇を果たした。そして、体育大学に推薦で合格した。賢一は猛勉強して、見事日本で一、二の名門の国立大学法学部に合格した。道は違うが、まさに二人はエリートだった。

禅は成長と共に才能を開花させ、日本のバスケットボール界でトップレベルだった。そして賢一は相変わらず塾にも行かず、自分だけの努力により、日本でトップレベルの国立大学にトップ合格していた。