エッセイ 日本画 2020.12.15 自分の人生を生ききった そんな顔でした 大正・昭和・平成と生ききった母が 享年九十八歳の生涯を閉じたのは 平成二十四年八月十九日でした 蓮咲く 長い年月で変形したひざ しっかりとテーピングされた手首 うすく うすくなった かあさん 三十度以上の暑さの部屋で 流れるおりんの音の中 普段着から紫色の死の装束へ ゆかんが静かにすすんでいった かあさんの聲が聴きたい かあさんの聲が かあさんの顔はきれいでした しわも消え とても安らかな顔でした 自分の人生を生ききった そんな顔でした
エッセイ 『59才 失くした物と得た物』 【新連載】 有村 月 結婚してから35年、「愛」はなくとも「情」は生まれる ダンナが死んだ―まさかの現実。自覚はなかったが、この時から私の「おひとりさま」は始まろうとしていたようだ。たしかにダンナは肝臓の数値が悪いと1ヵ月半入院したものの退院、体力も少しずつ戻りはじめ還暦祝の1泊旅行もし、そのたった1週間後にはこの世からいなくなるなんて、頭の中のすみっこにさえなかった事。よくいう野球の九回裏2アウトからの逆転満塁ホームラン的な。その1年半前、最愛の母が「くも膜下出血」で…
小説 『雪女』 【第2回】 佳 英児 早朝のゴルフ練習場。男性が使うアイアンを扱う謎の美女。相当に上手いようだが… 私は、女性を見た。彼女もこちらを見た。微笑んだその人は知的な雰囲気で整った顔立ちだった。少し開いた口からは、歯が見えた。明眸皓歯 (めいぼうこうし)の形容がぴったりの人だ。まだ、話してもいないけれど、きっと気の利いた人であろうと思った。「グッドショット」と言う代わりに、私は親指を立ててサインを送った。彼女は、チョコンとうなずくように挨拶を返してくれた。一体この女性のゴルフの腕前は如何ほどだろうか…