エッセイ 日本画 2020.12.15 自分の人生を生ききった そんな顔でした 大正・昭和・平成と生ききった母が 享年九十八歳の生涯を閉じたのは 平成二十四年八月十九日でした 蓮咲く 長い年月で変形したひざ しっかりとテーピングされた手首 うすく うすくなった かあさん 三十度以上の暑さの部屋で 流れるおりんの音の中 普段着から紫色の死の装束へ ゆかんが静かにすすんでいった かあさんの聲が聴きたい かあさんの聲が かあさんの顔はきれいでした しわも消え とても安らかな顔でした 自分の人生を生ききった そんな顔でした
小説 『曽我兄弟より熱を込めて』 【最終回】 坂口 螢火 用意した死に装束を、我が子に着せる。まだこんなに小さいのに、斬首だなんて…私が身代わりになって死にたい! 青天の霹靂とは、まさにこのこと。聞いた母の驚きは尋常のものではない。「エ――エッ! 何と、何とおっしゃいます!」声さえ別人のごとく裏返って、「厭です! 厭です! 渡しません、断じて……」絶望的な悲鳴を上げ、曽我太郎に取りすがって泣きわめいた。その母の絶叫に驚いて、一萬と箱王が「母上! いかがなさいました」と座敷に駆け込んでくる。「オオ――一萬、箱王」母は無我夢中で二人を左右にかき抱くと、黒髪を振…
小説 『人生の切り売り』 【第14回】 亀山 真一 彼は私をベッドに押し倒し、「いいんだよね?」と聞いた。頷くと、次のキスはもう少し深く求められ… 【前回の記事を読む】「席に着くなり上着を脱いだろ?」襟元の開いたシャツを指されて…全て見抜かれているような気がした。「覚えてないから言いますけど、よくそんな女と付き合ってましたね」「あすみちゃんは初めて俺を見つけてくれた人だから」「え?」「俺はいい人で安牌で基本的に友達コースなんだって」「……私、そんなこと言ったんですか?」「いや、君以外のいろんな人が」彼は自嘲気味に笑った。「あすみちゃんのマイ…