エッセイ 日本画 2020.12.15 自分の人生を生ききった そんな顔でした 大正・昭和・平成と生ききった母が 享年九十八歳の生涯を閉じたのは 平成二十四年八月十九日でした 蓮咲く 長い年月で変形したひざ しっかりとテーピングされた手首 うすく うすくなった かあさん 三十度以上の暑さの部屋で 流れるおりんの音の中 普段着から紫色の死の装束へ ゆかんが静かにすすんでいった かあさんの聲が聴きたい かあさんの聲が かあさんの顔はきれいでした しわも消え とても安らかな顔でした 自分の人生を生ききった そんな顔でした
エッセイ 『逆境のトリセツ[パラリンピック特集]』 【新連載】 谷口 正典,益村 泉月珠 右足を切断するしか、命をつなぐ方法はない。「代われるものなら母さんの足をあげたい」息子は、右足の切断を自ら決意した。 失うのは生命か右足か究極の選択まだ寒さが残る三月。午前二時。ピンポーン。「こんな時間に誰?」上着を羽織りながら玄関を開けた。そこに立っていたのは、背筋を伸ばした警察官だった。「正典さんのご家族の方ですか」「正典の母です。どうかしたんですか?」「正典さんが、国道二号線でトラックとの事故に遭いまして……」「え……、正典は無事ですか?」「現在、病院に搬送中です」動転した母は、兄と一緒に俺が運ばれた病院…
小説 『ツワブキの咲く場所』 【第22回】 雨宮 福一 祈ったところで、何になるんだろう…カルト教団に洗脳され、結びついた両親。壇上に立つ老人は救世主でも神様でもなかった。 【前回の記事を読む】子どもの私が、教祖と呼ばれていた壇上の老人に手を振る。思い出すのは、大人達の狂った言動と、視野が血で赤くなるほどの暴力。「こっちだ。喫煙所があるんだ」にかっと音がしそうな笑みを浮かべて、彼は私を連れていく。教会の外に設営された小さなプレハブの喫煙所の出入口はガラス戸で、カラカラッと乾いた音を立てた。備付けの椅子に腰掛けたら、教会の庭をぐるり見渡すことができる。喫煙所の内部は、…