カフェまでの道路は狭く一方通行に規制されている道路が多い。
だからゆっくり歩を進めるには丁度良い。両側のお店のウインドウを眺めながらその時々の季節を感じることが出来る。
「花梨」のガラス張りの正面入り口のドアを押して店内に入るとなじみの店員さんが「今日は」と声を掛けてくれた。ケーキが並んだショウケースの前を通り奥の喫茶室に向かった。
よく利用する奥まった二人掛けのテーブルに美代子は入り口が見える側の椅子に座った。「花梨」の照明は間接照明で薄暗く、落ち着いた気分にしてくれる。
室内の調度品、特にテーブルや椅子はすべてブラウンの色で統一した米国製のイーセンアーレンだ。天井の照明器具はスワロフスキーのクリスタルのシャンデリアが目立たないようにそれぞれのテーブルに配光しているのが憎めない演出だ。
床は無垢の木材が使われていてベージュのワックスがかけられている。美代子はこんな室内の落ち着いた雰囲気が好きで学生の頃、花帆に初めて連れてこられた時からファンになった。
花帆との約束の時間は十二時なので、しばらくぶりに来たお店でお茶でもしながら待つことにした。
店員さんがおしぼりとお水を運んできた。「何かお召し上がりになりますか」と聞かれたので「友達と待ち合わせしているので、それまでの間アールグレイのミルクティをいただくわ」とオーダーした後、バッグの中から読みかけの本を取り出してしおりを挟んだページをめくった。
美代子はどちらかと言うとサスペンス物が好きで日常生活でも言葉の裏を読み取るような推理を好み、特に事件物には自分が刑事になりきったように何通りもの仮説を立てることがある。