美代子は浮き浮きした気分で東急東横線の自由が丘駅の正面口改札を出た小さなロータリーにいた。
今日は半年振りに親友の花帆と会う。約束の時間よりかなり早く着いてしまった。

花帆の実家がある自由が丘は、大学生の頃二人のたまり場になっていた。時計を見ると十一時二十分を指していた。夏の陽ざしはこの時間になると太陽がほぼ真上に来るから日焼け防止のためにいつもバッグに日傘を入れている。

美代子はバッグから傘を取り出して空を見上げながら広げた。駅前は、待ち合わせだろうか、若い女性が何人も改札口の方向をじっと見つめていた。

ここのロータリーは十年以上も前から何も変わっていない。駅を中心に住宅地が周辺に発達し、そして昔から駅前にはこじんまりした商店があり、駅前の再開発が遅れてしまったようだ。

電車のアクセスは便利になり東急大井町線、更に二子玉川で田園都市線に連絡があり湘南台・藤沢方面や反対に都心を抜けて埼玉方面にまで相互乗り入れが出来るようになり、昔より人の往来が多くなったような気がする。

花帆との待ち合わせ場所は、学生時代からよく利用したカフェ「花梨」で駅前から数分歩いたシックな装いのお店で、洋菓子の種類が豊富だから地元の人達もケーキを良く買いに来る。仕事帰りに途中下車して買い求める人も多く見られる有名店だ。