思い出の街・二子玉川で、半年ぶりに会う友人を待ちながら…

数ページ読んだところで、急にため息をつき別れた彼の事が脳裏をかすめた。

マザコンだった元カレがあの時言った、彼の母親の「私は認めませんよ」が美代子の自尊心を粉々に砕きいつまでもトラウマになっていた。一瞬ボーッとしていた時店員さんの足音で我に返った。

やがて紅茶が運ばれてきた。先ず何も入れないで香りを嗅ぎながら口に含んだ。そしておもむろに熱いミルクを注ぎ角砂糖を二つ入れた。静かにスプーンで二、三度かきまぜた。

美代子は、英国資本の海運会社に勤務している関係上、コーヒーより紅茶の方が好きだ。特に紅茶はインド産の茶葉のダージリンで高級茶葉のオレンジペコーが好みで、他にフルーティな香りが強いアップルティなどもたしなむことが多い。

しばらくの間、頭を少し下げた姿勢で小説の続きを読んでいると、聞きなれたヒールの足音で本から目を離し頭を上げた、そして満面の笑みで軽く右手を上げた。

花帆が少し甲高い声で「美代子久しぶり、元気してた」と言いながら自分の前の椅子に腰かけた。

周囲の客も一瞬甲高い声で何事かと二人の方向を見たがすぐに元の静寂に戻った。二人も周囲の視線が気になったらしく顔を見合わせて苦笑いしながら静かなトーンで話し始めた。

「半年ぶりだよね、子育てで忙しいでしょう」と美代子が様子を窺うと花帆は「そうでもないけど、ゆっくりできるのは土・日のお休みの時ぐらいしかない、今日は主人に子供たちを預けて来た」

「じゃあ今日はゆっくり出来るわね!」

美代子が「貴女はコーヒーよね」
「覚えてくれていてありがとう」

美代子が店員さんに右手で合図した。