一
BGM流れて、私は少しリラックスした。絵を描く彼は、別人のように寡黙だった。曲が変わり、『ストレンジャー』になった。それが終わり『ピアノ・マン』が流れだした時、彼が英語で一緒に歌いだした。英語の発音もよく、歌も上手だった。
「貴方、歌手にもなれてよ」
「モデルは黙ってて。僕は今、画家もどきなんだから」と言って彼が笑った。彼が笑ったので、私はうれしかった。
「うん……。今日はここまでにしよう。服を着ていいよ」と言うなり、彼は画材を片づけて、ダイニングへ行ってしまった。時計を見ると三時だった。
「こっちへおいで」と彼が呼んだ。服を着てダイニングへ行くと、コスタリカを淹れてくれて、お皿にチョコレートケーキも出してくれた。
「君はチョコレートケーキが好きなんだろ?」
「えぇ。好きなの。ありがとう」と言って、私はフォークでケーキを食べかけた。
「君は美人の上に、本当にいい子だね」
「どうして?」
「この一カ月、僕が何してたかなんて聞かない」
「そんな関係じゃないもの」
「それが、他の女は違うんだよ。抱くとすぐ、お節介になる」
「私はまだ抱かれてないわ」
「抱いたようなもんだよ。……不満かい?」
「………」
「抱くのは簡単だよ。でも、それだけだ。セックスで満たされはしないよ」
「セックスって、相性があるって聞いた事があるわ」
「みんな一緒さ。……でも、僕らは相性がいいかもしれないな」
「だったら?」
「尚、抱かない。……僕らは抜き差しならなくなるかもしれない」
「ためしたら?」
「僕の可愛いお嬢さん。いけない子だなぁ。僕は自由じゃなきゃ生きられないんだ。僕は女性を幸せにはできないよ」
「私の幸せは私の問題よ。貴方に責任はないわ」