前回同様に丁重な応接を受け、島崎の部屋へ通された。
「芹生さん。読み終えるのに時間がかかり申し訳ありません」
「とんでもありません。わたしこそお忙しい島崎さんのご都合も考えずに、図々しいお願いをしてしまいました」
「このところ、いくつもの企画が同時進行していたものですから。それに芹生さんの作風からして、じっくりと腰を据えて読まなければならない作品であろうことは想像していたので。その時間を確保するのに手間取りました」
「恐縮です」
「そこで僭越ながらの感想ですが」
と言って島崎は珈琲を口にした。それにつられるように、失礼します、と言って珈琲を口に運び、期待と不安が入り混じった気持ちで島崎の言葉を待ち構えた。
「一言で言うと素晴らしい作品です」
「あ、はい。ありがとうございます」
ほっとして珈琲を口にした。島崎が言葉を継いだ。
「素晴らしい作品ではあるのですが」
と言って島崎も珈琲を口にした。次の言葉を待つ間に不安がよぎる。
「ここから先はあくまで編集者目線での批評としてお聞きください」
「はい」
「率直に言うと出版には難しい作品です」
まったく予想していない批評ではないが、いざ言われてみると足元が揺らぐような気がした。作家にとって、「出版するには難しい作品」というのは致命的になりかねない。
「教えてください。いったいどのように難しいのでしょう?」