振り返ると、薄闇の中に岸谷と岩崎の顔が浮かんでいた。
「きみたちも沼田君に呼ばれたの?」
「ああ」岩崎が答えた。「岸谷とはいましがたそこで会った」
「みんなばらばらに呼ばれたんだね」
「で、沼田は?」
「まだ来ていないみたい」
夕陽が山にのまれ、空がみるみる濃紺に染められていく。互いの顔もよく分からないほどである。
しばらくすると、「おーい」と声がした。沼田の声だ。沼田は手にたいまつを持ち、笹見平の方からゆっくりと歩いてきた。三人は沼田が自分たちのところまでやってくるのを待ち構えた。すでに明かりが無いと歩くのが難しいほど暗くなっていた。
「待たせたね」沼田はたいまつの明かりの中でひっそりと口角を上げた。顔に不気味な影が描かれた。
「いいさ」岩崎が早口で言った。「で、話ってなんだ」
「早坂は?」と岸谷。
沼田は答えない。
林は辺りを見渡し「早く済ませて帰ろう。獣が出かねないよ」
すると
「ああっ!」
林の目の前で岸谷が悲鳴とともに崩れ落ちた。彼は膝を抱えてうずくまっている。
「アヂッ!」
今度は背後で岩崎の声。振り返ると、岩崎は地に伏し、顔を押えてのたうちまわっている。毛の焦げるツンとした匂いが鼻を突く。
「沼田君、なんてことを――」
林は顔を上げた――途端に右顎に強烈な一撃が走った。
林はふっとばされて地にうずくまった。