「あなたは、私どもの恩人でございます。あのとき、洛瑩(ルオイン)が出会ったのが、あなたでなかったなら、私どもは、ふたたび娘の顔を見ることはかなわず、わが家は、火の消えたような悲しみを、味わっていたことでありましょう。
こうしてお会いできたのは、吉祥天(きっしょうてん)様の導きにちがいありませぬ。こうして恩人に直接、お会いできるとは……些少ながら、われらの感謝を形にしたいと、かねてより念じておりました」
曹察(ツァオチャー)がさし出して来たのは、馬蹄の形をした、大小の銀塊であった。
「五十両ございます」
私は、かぶりを振った。
「こんな……なんと言ったらいいか」
「どうか、お受けくださいまし」
父娘して頭を下げる。
「叙達(シュター)、そなたの善行のもたらしたものだ。ここまでおっしゃるのだから、ありがたく頂戴しておきなさい」
住職が、口ぞえした。
「……では」
おし戴くとき、手がふるえた。こんな形で、うばわれた銀がもどって来るとは……しかも、正戸の身分となるのに、じゅうぶんな重さで。
「叙達(シュター)どの、私は明日、福建(フージェン)へ帰ります。よかったら、お近づきのしるしに、酒肴(しゅこう)などはこばせたいのですが、如何でしょう? ここは寺ですから、場所をかえて」
洛瑩(ルオイン)が、たしなめる。
「お父さま、叙達(シュター)さまは、怪我を押して、わざわざ私たちの招きに応じてくださったのです。これ以上ご足労を願えば、おからだに、負担がかかってしまいます」
「さっきから気になっておりました。そのあざは、いったい、どうなされたのですか」
私のかわりに、こたえたのは、洛瑩(ルオイン)だった。
「お客さま同士のけんかに、巻き込まれてしまったのだそうです。ひどいお怪我で、まだ養生なさったほうがよいかと」