辺りを見回すと、ロビーの一画にコンシェルジェ・デスクがあることに気がついた。

「ちょっと時間が空いてしまったのですが、街には絵とか彫刻とかの画廊はありますか?」

「もちろんございますよ。ここは文化の町ポルトです。もしも特にお目当ての画廊がないのでしたら画廊通りを推薦いたします。二、三百メートルにわたって、数十軒の画廊がひしめいていますから」

「数十軒の画廊通り? さすがはポルトですね。それで、どの辺ですか?」

「ダウン・タウンの中心で、ここから車で十分ほどのところです。この地図に丸印をつけておきましょう。でも今日、全部の店が開いているかどうかは分かりませんよ。画廊って結構不規則のようですから」

これで昨日立ち寄れなかった画廊を覗くことができることになった。飛行場のトラブルは決して不運な出来事ではなく、強い流れの中にある、特別な運命を呼び込むために、まるで仕組まれたようになっていようとは、もちろん宗像には知る由もなかった。

また同時にこの運命は、別の場所にいるもう一人の人間にとっても同じことと言えたのだった。

昨日立ち寄ったカフェ・マジェスティックの手前でタクシーを下りた。十時を少し回ったばかりの時刻では、まだシャッターが閉められたままの店も多い。

ショッピング・モールは黒とベージュの石灰岩を加工した小さな歩石材で、二色に模様貼りされている。店員たちはシャッターを開けたり、ショー・ウィンドウに商品を並べたり、店の前に水を撒いたりなどして忙しそうだ。宗像もカメラを携えて久しぶりに気持ちの良いシャッターを切っていた。

ちょうど一本目のロールを撮り終えたときだった。カメラの裏蓋を開け、フィルム交換を終えたまさにその瞬間、信じられない光景が展開したのである。

ちょうど一台のタクシーが宗像の十数メートル前方で止まったところだった。後ろのドアが開くと、一人の若い女が姿を現した。そして宗像と同じ方向に向かって小走りに歩き始めたのである。

誰あろう、その女とは意外にもエリザベスだった。