第2章 社会
イノシカ庁
今年80歳になるMさんはいつも賑やかで明るい患者さんです。でもその日は何だか元気がありません。
「元気ないですね」との私の問いかけに返ってきた言葉は「豆採りでくたびれた」でした。豆の収穫の仕事があったようです。
「そうかあ。豆採りでマメでなくなったか」。私のつぶやきに対しきょとんとしていたMさんは突然「ガハハ!」と笑いだし「危ないあぶない。また引っかかるところだった。いつも何か言われるから油断すまいと思っているけれど」と少し明るくなって出て行かれました。
診察中化石医師は駄洒落を言うことが多い。そんな駄洒落に患者さん、時にはスタッフすら一瞬気づかず、しばらく経ってから大爆笑することがあります。
とかく重くなりがちな診察の雰囲気を和やかにする効果もあります。Mさんもそんな駄洒落の洗礼を受けてきた一人です。
続いて入室したSさんは「苦労して豆を作っても全部サルやイノシシに持って行かれてしまう。何のために苦労して作っているかわからない。ただ疲れるだけ」とぼやきます。お二人の話を聞く中で地域では豆を作っている家が多く今が収穫時期であることがわかります。
同時に民家のある畑にもクマ、シカ、サル、イノシシなどが出没し被害が多くなっていることがわかります。こうした傾向は全国いたる所に共通したものであり、岐阜県のある地域では若者達が「イノシカ庁」なる組織を立ち上げ、野生動物から農作物の被害を守ろうと乗り出し始めています。
Sさんに続いて入ったTさん。