第一章 三億円の田んぼ
(七)
富井田課長は、相当オーガペックに痛い目に遭わされたらしい。明らかに、敵視している。
気づくと、事務所から出てきた秀造も、背後で黙って話を聞いていた。富井田課長の話が一段落すると、苦笑いしてうなずく。
「まあ、確かにそうなんだけど。最初にオーガニック認証取ろうと思ったとき、右も左もわからず、五里霧中だった。誰に相談したらいいかもわからなくて。そのときに、指導してくれたのがスティーブンだったんです」
認証の前に、有機栽培のやり方の指導を仰いだ。そして数年かけ、最初の田んぼの認証を取得。徐々に認証田を、増やして来たのだと言う。
「確かに今となっては、新しい田んぼの認証は他所の機関でもいいんだけど、今までの付き合いもあるし、つい、オーガペックに頼んじゃうんです」
富井田課長が、大きく首を左右に振る。
「烏丸さん、今からでも遅くはありません。既に取得したところはともかく。新しく認定取る田んぼは、よそに頼みましょう。県の認定機関とか、もっといいところはいくらでもあります。僕が、紹介しますから」
「ありがとうございます。来年は、そうしようかな」
秀造が、苦笑いしながらも、渋々うなずいた。
富井田課長が、約束ですよと、念を押している。
話の輪に加わっていた葉子が、玲子に気づいた。にこにこと話しかけてくる。
「ご存じですか? オーガニックって、語源は楽器のオルガンと一緒なんです」
「オルガンだと?」
有機栽培については、さっきも疑問に思ったところだ。
「と、言ってもパイプオルガンですけど。あのパイプが、動物の器官に似てるから。オルガンって、器官って意味なんです」
「確かに、あのパイプは、動物の内臓に似てなくもないな」
「有機物は、大昔、生物の器官でしか作れないと思われてました。いまだにその名残が、残ってるんですね」
「そうか、有機とは、昔ながらの生物が作り出す肥料のことなんだな」
葉子の説明は、目から鱗だった。