辞書を引くと、利己とは「自分一人だけの利益を計ること。」対して利他とは「自分を犠牲にして他人に利益を与えること。」(出典:広辞苑 岩波書店)です。私が驚いたのは、2000年以降、日本人に、「まず、他人の利益を考えることを前提に自分の利益を考えるべきではないですか」と伝えると、「なぜ、自分の利益の前に、他人のことを考えなければいけないのですか」と真顔で返ってくるようになったことです。
全く話がかみ合わなくなりました。おそらく、相手は、ほんとうにその意味が理解できないのだと思います。
富の格差も大きな問題です。これに関し、大学時代の国際経済の授業の一コマを思い出します。国際貿易の理論の中核となるのがリカードの比較優位という考え方です。2国間で、それぞれの国が生産性の高い製品に特化し、2国間で貿易を行ったほうが、全体の生産量は、貿易を行わないときより増え、豊かになるというものです。
自由貿易を拡大すればするほど、世界経済は成長するのです。こうした比較優位の理論に裏付けられて、世界経済は長い間発展してきました。
しかし、ペリー以来、自由貿易の旗手と言われてきたアメリカに異変が起きています。トランプ氏です。
「今回の大統領選挙では、自由貿易が大きな争点となっている。特に本来は自由貿易を推進してきた共和党の支持者の間で、懐疑的な見方が増えている。ピュー・リサーチ・センターの調査では、自由貿易が『悪いこと』と答えたのは、民主党支持者で34%、共和党支持者は53%だ。トランプ氏支持者では67%にものぼる」。(出典:2016年5月9日 朝日新聞朝刊)。
トランプ氏の信じられない言動に振り回されているアメリカ、世界ですが、自由貿易に関するトランプ氏の反応は、18世紀以降誰も気づかなかった自由貿易の矛盾を衝いた形で出てきたといえます。トランプ氏は言います。
「みなさん、昔より2倍も働いているのに、稼ぎが減るなんてウンザリでしょう。その気持ち、わかりますよ」
「北米自由貿易協定(NAFTA)は我が国を破壊した。TPP(環太平洋経済連携協定)はもっとひどくなりますね」
(出典:2016年5月9日 朝日新聞朝刊)。
トランプ氏の言葉は現実でもあります。トランプ氏を支持しているアメリカ人だけではなく、今の日本人も、うなずく人が多いのではないでしょうか。