外科医を目指したきっかけ
転機は1年目の冬に巡ってきた。外科研修で、医師10年目の中堅、長谷川先生が指導医となったことである。
外科では手術の技術が求められる。技術が全てではないが、かなり重要である。
「よし、じゃあこの糸を結んでみて」
チャンスは突然にやってくる。
「じゃあ次はこれをやってみようか」
そつなくこなすことができれば、次のチャンスが与えられる。
「もういいよ。ちゃんと練習してきて」
うまくできなければこう言われて、次のチャンスはなかなかこない。チャンスを与えられた時にできることをアピールすることで次のチャンスが巡ってくる。
外科はそんなシビアな科だった。体育会系の部活動に似ているところがある。同期がいれば当然競い合うことになるし、比べられる。
僕は子どもの頃から家族で一番きれいに魚を食べることができたし、図工も得意だったため、手先を上手に動かす器用さが求められる手術には興味があった。しかし競争は嫌だったので、外科医になりたいわけではなかった。
しかも、1つ上の研修医の先輩が外科のローテーションでかなり厳しく指導されている姿を目の当たりにし、僕の中では石山病院の外科研修は辛いというイメージが定着していた。だから僕は戦々恐々としていた。外科研修が始まる1週間前、長谷川先生は大量の手術用の糸を僕に渡しながら言った。