親からひどく無視されたり虐待されたり、残酷な扱いを受けた子どもがいたとしても、ASDにならないことはわかっています。しかし、近年はマルトリートメントや虐待によって、ASDは二次的障害としてつくられることもいわれていることです。

これは、冷戦が終結したルーマニアのチャウシェスク時代に生まれた孤児や遺棄児の事例から指摘されています。虐待などの過度な迫害体験は「自閉症のような」状態をつくりだしかねないということです。これは迫害体験が脳の構造を変えてしまうからだとも考えられ、うつ病を発症する子どもも多くなるといわれます。

また、ASDのなかには、幼児期に、靴下を履きたがらない、泥や砂の上を歩きたがらない、泥遊びや土いじりなどのように砂や水で遊ぶのを嫌うなど、感覚遊びを極端に嫌う子どもがみられます。脳科学の研究において、神経学者のD・カッツは触覚の重要性について触覚が成長ホルモンの分泌や遺伝子発現の喚起を促進することを明らかにしました。「触る」という直接的な触覚刺激は、人の心を安定させる愛情表現であるとも考えられます。

ASDのコミュニケーション障害のある子どもは、人から触れられることを極端に嫌がる触覚防衛を示す場合が多いのです。これは感覚過敏、感覚鈍麻などの感覚障害に原因があります。

日常生活のなかでは爪切り、洗顔、洗髪・散髪、耳垢(あか)取り、歯磨きなどにその傾向がでてきます。感覚障害に関しては、馴れるという馴化(じゅんか)が難しいので、叱らないで嫌悪刺激から避けることが支援方針になります。なかにはアロマセラピーやマッサージなどのソフトタッチの触れ合いから関係をつくっていくことも考えられます。