第一章 発達障がいに悩む人たち

成績の良い人の落とし穴

学校の成績が良ければ将来は安泰と考えている方も少なくないと思いますが、成績のよしあしと発達障がいであるかどうかは、完全には結びつきません。

子どもの頃から成績が良く、優秀な大学に入り良い企業に就職したとしても、会社に馴染めず、転職を繰り返すケースが増えています。その原因に、発達障がいが関わっていることが少なくないのです。

日本の現状の教育では、テストなどの学力が重要視されています。他人とうまく関われなくても、自己中心的な行動が目立っても、成績が良ければ良い大学に入ることもでき、良い企業に就職することも可能です。

頭の良い人は、たとえ発達障がいの症状が現れていたとしても、成績が良いことで周囲からもちやほやされることも多いためプライドが高くなりがちで、自分が発達障がいであるとは露(つゆ)ほども思っていませんし、周りから指摘されたとしても認めにくい傾向にあります。

親御さんも「この子は多少変わっているかもしれないけれど、成績が良いのだから大丈夫」とさして気にしないケースが多く見受けられます。そのため、成績が良いお子さんほど、発達障がいが見過ごされたまま成長してしまいがちです。

しかし、社会では、前述したように知識以上にコミュニケーション能力や協調性が重要視される傾向にあり、社会に出てから、発達障がいの症状が原因でつまずいてしまうことがあるのです。実は医師に、そのようなタイプが多く見られます。

こだわりを持って一つのことに打ち込めるという発達障がいの特徴が良いように作用すれば良いのですが、逆に、悪い方向に作用している医師の方も少なくないようです。眼科医の方のこんなエピソードを聞いたことがあります。

ある日、小学生のF君が視力測定のために近所の眼科を訪れました。初めは左目を隠して右目の視力を測定しました。視力測定者が「はい、結構です。それでは逆にして」と言うとF君は、右目を隠し、「上、下……」と答え、問題なく順調に測定できていると思われていました。