(うっ……)
空気が、よどんでいる。用便のにおいか、なま肉がくさったような……だが、悪臭の中にも、わずかな風を感じた。
天井をさぐってみると、ところどころ孔があいていて、排水管のようなくだがさし込まれている。さわれば、泥のかたまりである。
ぶちこまれた者が、死なない程度の空気を、とるためと思われた。晴れたときには、生き地獄にいるのだと確認できるほどの光もふって来るわけだが、雨になれば、その光は、泥水に化けるのだろう。その中には、蛭(ひる)や百足(むかで)もまざっているかもしれない。
いろんな断片が、つながって来た。
(曹洛瑩(ツァオルオイン)も、あるいは……)
私と出会わなかったら、ここに入れられていたのかもしれない。
奥の回廊には、灯がともされていた。区切られた牢屋には、頑丈な格子がはめられている。部屋の広さは、人ひとりが横になり、ようやく左右に寝返りが打てるほどしかなく、そのせまい空間が回廊の左右に、ズラリとならんでいる。
だんだん、腐臭が強くなって来た。
からの部屋もあれば、囚人がうずくまっている部屋もあった。大半は少女であったが、まれに少年が囚われている部屋もあった。
そして、ついに、見てしまった。血だるまになった羊七(ヤンチー)が、こちらに頭をむけて、死んでいるのを――。
彼もながい間、ここに閉じ込められていたのだ。
そのときである。
はす向かいにとらわれている少年が、猪突猛進、全体重をぶつける勢いで、格子に体当たりして来た。おどろいて後ずさったが、少年もまた、格子にはじき飛ばされた。
「ウーッ、フーッ」
猛獣さながらのうなり声をあげ、憎悪をたぎらせた目で、睨(ね)めつけて来る。私を、看守と、まちがえているのだろうか。見れば、少年の首と、二つの手首は、一枚板にうがたれた三つの穴におさまり、動きを封じられているのであった。
「殺せ! 殺せっ!」
少年は、格子越しに、顔を真っ赤にして叫んだ。と、その声に連鎖するように、べつの牢屋にとらわれている誰かが、すすり泣きはじめた。
侵入したとき聞こえて来た、犬の遠吠えみたいな声や、丸太を壁に打ちつけるような音は、空耳ではなかったのだ。
べつの広間につき当った。動物を調教するような責め具が、ところせましと、ならべられていた。形のまがまがしさや、ところどころ鋭利な刃がのぞいていることから、人を痛めつけるためにつくられた道具であることだけは、看てとれた。
この地下牢には、ただ一つのものをのぞいては、何もない。
絶望――それだ。
紅顔豊頰(こうがんほうきょう)、春秋に富み、人生これからというときに、漁覇翁(イーバーウェン)の網――まさに、悪い漁師がひろげた網だ――に引っかかってしまった子供たち。
(南無阿弥陀佛、南無吉祥天……)
佛(ほとけ)の名号を呼ぶ。
地獄だ――人の手が作りだした。
――見つかれば、殺される。
もと来た道を、もどろうとした。が、地下牢は迷路のように入り組んでおり、いま自分がどこにいるのか、わからなくなってしまった。