「座って」と神矢はソファーへ私をすすめた。私は部屋をぐるりと、ゆっくり一回りして絵を眺めてから、何ともいえない満たされた心地でソファーへ座った。
神矢も向かいに座り、ステレオのリモコンを押したようだった。モーツァルトの『交響曲 第四十番』が流れ出した。でも、これまで聴いたものとは、まるで違って、体が浮き立つようにリズミカルで、美しい音色だった。
「リズムが良くて、素敵な音色ね!」
「ラファエル・クーベリックの指揮だよ。君に聴かせてあげたかったんだ」
「本当に素敵! 心が踊るようだわ!」
「だろう!」と神矢は満足げに笑った。
第一楽章が終わった時、神矢が言った。
「音楽は、このまま流しておくから、こっちへ来て」
続き間のダイニングに案内された。テーブルには向かい合わせに、真っ白なランチョンマットが敷かれ、その上に、美味しそうなハンバーグとエビフライが大きなお皿にサラダと一緒にのっていた。
スープもあった。ご飯のお皿もあり、ナイフとフォークとスプーンがきちんと置いてあり、真っ白なナプキンもレストランのように折り畳んで置いてあった。
それに、テーブルには、真っ白な美しい百合、見事なカサブランカが、花瓶に飾られていた。花は五つ満開に咲いていて、うっとりするようないい香りを漂わせていた。
私は促されるままに椅子に腰かけた。私は夢のようで感激した。
「これ、みんな、貴方が作ったの?」
「そうだよ」
「うれしいわ。私のために、こんなに準備してくれて! カサブランカも凄く綺麗!」と、私は花に顔を向け、香りを嗅いだ。
「君には、この花が似合うと思ってね」
「本当にありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。……君、ワインか何か飲むのかい?」
「ううぅん。アルコールは全く飲めないの」
「そう。良かった。僕も飲まないんだ。じゃぁ、ノンアルコールで乾杯でいいかい?」
「えぇ。うれしいわ」
神矢は冷蔵庫へ行って、ノンアルコールの缶を二本持って来て、私のグラスに注いでくれ、自分のグラスにも注いだ。