第1章 本書の重要事項

重要事項16 行動規範と感性認識─善悪、その根本的考察

(3)善悪の定義および善悪の定まり方

ここまではそもそも善悪とは何かということに触れることなく進めてきましたが、ここで、本書でいう、「善悪の定義とその定まり方」についてお話ししておきたいと思います。

(善悪の定義)

善悪とは、「社会生活を営む知的生命体間に生ずる行為の概念で、その生命体の性質とこれに由来する“人間界至高の理念”に調和するものは善、調和しないものは悪である」と定義します。なお、善・美とは、「生命体の感性認識に関わる概念で、その生命体とこれに由来する“理念”に調和するものはその度合いは高く、調和しないものはその度合いが低いものである」と定義します。

人類の場合、その性質とは、前出の「重要事項14 人類という生命体の性質」のことで、それに由来する理念とは「重要事項15 人間界至高の理念」のことです。これら2つを合わせて、これ以後「人間界至高の理念」と呼ぶことにします。世界の人々は皆大なり小なり違った価値観で生きておりますが、この理念は人間界において普遍的かつ恒久的に受け容れられるものと仮定します。

(善悪の定まり方)

善悪を定め判断するに当たっては、当然「善悪の定義」に基づくことになります。しかし、そうすることで、人類の善悪が自動的に定まるわけではありません。

なぜなら、「人間界至高の理念」が善悪の判断の基準として人間界に受け容れられたと仮定しても、人間界は多くの社会集団からなっており、同じ行為に対してもそれぞれの集団で善悪が違っている場合があるからです。この違いはそれぞれの集団が異なる文化、文明、人為・自然環境(環境条件)を背景としていることに原因があると考えられます。

すなわち、環境条件が異なれば善悪も異なるということです。人間界に普遍の善悪は皆無であるとは言えず、同じものや似通ったものも少なくない反面、異なるものも多く、中には善悪が逆転していることさえあります。

だからといって、善悪の定義が色褪せることはありません。人間界に共通で普遍の定義であれば、それは善へ向かう灯台として堅持しなければなりません。

我々はこの灯台を見つめながら、倦むことのない真摯な対話を重ね、たとえ善悪についての完璧な一致が得られなくとも、お互いが理解を深めることを目指し努力を重ねなければなりません。