砂川や盛江が喜びを示す拍手をすると、集落の人々も拍手をした。どうやら心を通わせるジェスチャーには、時代の差がないようである。

しかし、言葉は全く通じず、スムーズなコミュニケーションは程遠かった。林らは砂地に地図を書いて、自分たちがどの道を通って集落にやってきたか説明した。笹見平にあたる地点を指差し、次に自分の胸を指差す。ぼくらはここから来た、ということを伝えたかった。

長老は「おー、おー」と納得した様子で首を縦に振った。どうやら分かってくれたらしい。その後のジェスチャーで、「ワシらもそこへは行ったことがある」ということが分かった。長老は笹見平の他、いろいろな場所を指差したが、林らには何のことだか分からなかった。

やがて、集落にざわついた空気が起きた。林らが目を向けると、女性や子どもたちの人垣の外に、背の高い男性の頭がいくつか見えた。

みな精悍で、浅黒く焼けている。おそらく年齢は林らと同じくらい。切れ長の目、細筋の鼻梁。唇は一文字に結ばれている。いかにも東洋人の祖先のような顔立ちである。

彼らは五人連れで、それぞれ手に得物を持っていた。石槍、投石用らしいなめし革、弦を張って絞られた棒は弓らしい。顔に墨を塗っているのは迷彩だろうか。

彼らは探検隊の姿を目にし、驚いたような、訝しがるような顔をした。長老が先頭の男に歩み寄り何かを言った。すると男は笑みを浮かべ、自ら林に歩み寄り、手を差し伸べた。林は自分より頭一つ高いその男を見上げ、笑顔で握手を交わした。

――なんてきれいな目をしているんだろう。

林はこんなに濁りのない瞳を見たのは初めてのような気がした。現代の若者にこんなにピュアな瞳の持ち主がいるだろうか。林はその目に吸い込まれそうな思いがした。

彼らは集落の稼ぎ頭の若者衆。たった今、猟を終えて帰ってきたところらしい。村に戻って人だかりができていたから、様子を見に来たようである。

男は自分を指差し「ユヒト」と言った。それが彼の名前なのだろう。林は自分を指差し「ユウト」、ついで砂川を指差し「ユータロー」、盛江を「スナオ」と紹介した。

ユヒトは一人一人「ユウト」「ユータロー」「スナオ」と口に出して繰り返し、今度は自分の仲間を「イニギ」「スソノ」と紹介した。探検隊も、それぞれ「ユヒト」「イニギ」「スソノ」と呼び返して覚えた。

お互い名前を呼び合ううちに、なんだか不思議な高揚感が沸いてきた。やがて他の若者も名前を名乗り出し、気が付けば互いを指差して名を呼び合う、何とも不思議なお祭り騒ぎになっていた。