第一章　ある教授の死

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 山科は鷹揚（おうよう）に頭を下げたが、あまり気乗りしないようすだ。生前の高槻教授とのつきあいから、お義理でこの場にいるのではないか。沙也香はなんとなくそんな印象を受けた。

「大鳥さんのお連れの方は、出版社の方ですわね」

夫人が確認するようにいった。まゆみのことは前もって夫人には伝えているのだが、ほかの二人にはわかっていないはずだ。沙也香はあわてて紹介した。

「こちらは沢田まゆみさんといって、松風出版で編集の仕事をされています。わたしの担当ということで、いつもお世話になっている人です」

「沢田まゆみと申します。よろしくお願いします」まゆみは緊張した表情で頭を下げた。

「こちらでのお二人のご予定はどうなっているんですか」と夫人が聞いたので、沙也香はすぐ答えた。

「今日は、ともかくこちらで高槻先生がどんな研究をされていたのか、研究に使われていた資料や成果を記録したメモのようなものがあれば、それを見せていただくことにしています。そして明日は、せっかくこちらに来ましたので、聖徳太子に関係のある史跡や遺跡をできるだけ見て回りたいと思っています。あさっては、少しゆっくりしてから東京に帰る予定です」

「なるほど。明日は観光コースを回るということですか。天気もよさそうやし、ええ見学旅行になるでしょうな」山科が明らかに皮肉とわかる口ぶりでいった。

「わたしは、物見遊山に来たわけではありま せんわ」

沙也香はむっとした表情を隠さずに強い口調でいった。隣に座ったまゆみがそっと袖口を引っぱったが、沙也香はそこまで皮肉をいわれて黙って引き下がる気はない。

「そういわれますがなあ、観光コースを回ったかて、いい加減な作り話を聞かされるだけでっせ」

「それはわかっています。でも一般の人がどんな話を聞かされているのか、どんなことを信じているのか、それを知ることも、今回こちらに来たことの目的のひとつです」

「なるほどなあ。ものはいいようですな」