「想像ですが、部屋中の指紋を隅から隅まで拭いて回ったんじゃないでしょうか。鑑識の乾主任が『客室からは指紋らしい指紋が出なかった』と言っていました」
沢渡はそう言うと空閑に顔を振った。
「犯人はじっくり時間をかけて、部屋中の指紋を拭いて回り、証拠隠滅を図った」
空閑は虚空を睨んで呟き、いったん言葉を切ると続けた。
「それにかかった時間が4時間。何度も何度も念入りに部屋中を拭いて……」
「犯人は潔癖症なのでしょうか」
「俺が思うに、犯人は極度の心配性だと思うな」
空閑の喋りは落ち着いていた。
「心配性……ですか? そんな性格は女性に多いような気がしますが」
「ゲイ専門のホテルだろ? ホテルXOXは普通が通用しないと思っておけ」
「ですね。ゲイでそんな性格の人間か……」沢渡が思案顔をつくりながら言葉を継いだ。
「二丁目のゲイバーを虱潰しに回りますか? 防犯カメラの映像を追うよりも、自分には合っています」
「おいおい、どっちにせよドブ板仕事ってことかよ」
空閑が唇を尖らせ沢渡を睨んだとき、ポケットのスマートフォンが震えた。液晶画面を見ると五十嵐管理官からだった。
「空閑君か? 今どこかな」
「刑事課にいます」
「ちょっと、私の部屋に上がってきてくれ」
「わかりました」
「沢渡君も一緒に来るよう言ってくれ」
「ハイ……」
空閑は管理官直々の話がなんなのか見当もつかない様子だ。
「沢渡! 管理官が上がってきてくれと電話だ」
「私も、ですか? なんでしょう? でもちょうど良いタイミングですね。花屋を当たるか、二丁目を虱潰しにやるか管理官に聞いてみましょう」
管理官の部屋の前で、空閑は姿勢を正し沢渡に目線を振った。沢渡は軽く顎を引いた。それを合図に空閑はマホガニーの重厚な扉をノックした。
「空閑です」
「開いているよ。入ってくれ」
試し読み連載は、今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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