「なあ暁くん、だいぶ仕事にも慣れたよね。お客さんの評判もいいし、カクテルの勉強もよくしてるし、良くやってくれてるよ」
「はあ、どうも……」
「特に女性客に人気だよね、可愛いんだろうね」
「はあ、まあ……若いってだけでしょうけど」
「この仕事、向いてると思うよ。まあ、女性だろうと男性だろうと、バーテンってのはうまい酒と居心地のいいひと時を提供することが大事なんだよね」
「ええ……はい」
「お客さまには平等に接しないとね」
言葉を選んでいるようだが、つまり度々客と深い仲になることが気になったってことかな……?
「ま、これからもよろしくね」
「はい……」
しばらくして解散した。この時間交通手段はないため、マスターは原付、暁は徒歩圏内に住んでいた。夜明け前の駅前は暗く、閑散としている。
……なんとなく、注意されたらしいことは分かったが、どうもピンと来なかった。
確かに女性客の相手のほうが得意と言えたが、何も毎週のように手を出しているわけじゃないけど、な……。女に気をつけろってことかな……。
休みの間、暁はついマスターに言われたことを考えた。あそこで働き始めてから半年の間に何人と寝たかな……。1回限りもいれば、何度か続いている女もいるが、誰にも連絡先は教えていないし、何も貰っていない。
せいぜいホテル代の半分を払おうとしても受け取って貰えなかったとか、1杯奢って貰ったとか、その程度だ。
まあ確かに、今まで何もなかったからと言って、これからも何もないとは限らないか……。少しいい気になってたのかな……? しかし、マスターはどこまで把握しているんだ?
洗濯していると、実家から宅配便が届いた。米とかレトルトとか乾麺等の食料品で、年に2回ほど届く定期便だった。先週誕生日だったから。いつもながら色気のないプレゼントだ。
幼い頃、父の浮気により両親は離婚しており、出て行った母の顔はあまり覚えていない。
再婚でできた義母はずっとよそよそしいままではあったが、悪い人ではなかったし、後に生まれた妹もいい子だった。別に2人とも好きでも嫌いでもない。家庭は平和だったが、白々としていた。父も暁には必要以上に話しかけなかった。それは母に似ているせいらしかった。
父は、自分の浮気のせいで見捨てられたのにもかかわらず、子供を置いて出て行かれたことは許せないそうだ。
そんな家庭で、自分1人が余計な存在であることは間違いなかった。大学入学をきっかけに1人暮らしをするに当たっては家族は大賛成で、奨学金を自分で返す条件で、卒業まで生活支援はして貰った。
それから実家には1度も帰っていない、帰って来いとも言われなかった。たまにメールするだけで用は足りた。早速荷物ありがとうとメールしておいた。あとは正月にメールするだけで義理は果たすことになる。お互いに。
いつか本当の母親が迎えに来るのではないかという淡い夢は成長するにつれ薄まって行き、代わりに甘やかしてくれる女が好きなマザコン男の出来上がりというわけだ。そう、自分でもマザコンだろうと自覚していた。
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ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp