「でも……冨良人さんにだけは心を許してるみたいね……不思議……そういえば確か貴方……漫画家さん?なのよね?」
「いえ……それは趣味みたいなもので……本業は美容師を……」
「あらっ、貴方っ、美容師さんなの!? どうりで、オシャレさんだと思った。今度私も、やってもらおうかしら。でも前に、貴方が描いた漫画が出版したって娘から……」
「それは、たまたま運良く出版する機会があって」
しかし、そんな会話とはウラハラに……突然そんな話を聞かされた僕は……ショックのあまり、頭の中は真っ白になっていた。最近では珍しい話ではないが……まさか、自分が好意を寄せた女性に、そんな事があったなんて……僕は、やるせない気持ちにさせられた。
しばらく沈黙が続く。
おそらく明愛花母は、口を滑らせて言ってしまったであろう、明愛花と父親との事で、僕らの関係を壊してしまうのではないかと案じていたのだろう……。そして静寂の中、明愛花母のお茶を啜る音だけが響き渡る。
「そういえば、あの娘遅いわね……」と言いながらテレビをつけた。おそらく、間が持たず重たい空気に耐えきれなくなったのだろう。程なくして、玄関の方から扉の開く音とともに「ただいま~」という明愛花の声がした。そして「おかえり……冨良人君が待ってるわよ」と言いながら、玄関へ迎えに行く明愛花の母。
「えっ冨良人、もう来てるの?!」そしてパタパタと小走りで駆け寄って来る明愛花……僕らが、目を合わせると、明愛花は顔を赤らめながら笑顔を見せた。
僕は明愛花に「おかえり」の一言。すると明愛花も「うんっ、ただいま……」と返す。
そして彼女は、慌て気味で身支度をすませ、部屋から出てくると彼女の「行こう」の一言でさっさと家を出るのだった……。そして僕も、そんな彼女を慌てて追いかける。今日は、3月11日……明愛花の誕生日だ。だが……僕らの許された時間は、僅か3時間……。この思うように行かない条件が、2人の気持ちを加速させた……。
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