【前回記事を読む】彼女の手を握ると、握り返してくれた。「この瞬間がずっと続けばいいのに…」と呟く彼女に、僕は想いを抑えきれず、そっと唇を重ねた
予感
2015.3.11 3時間の秘密
明愛花と出会い、そろそろ二年になりようやくお互いの距離が縮み、初めて明愛花の家を訪れたときのことだった。
「明愛花はまだ、病院から帰って来ないのよ……せっかくだから上がって、お茶出すから」
「すいません、今日は、午前は用が有るとは聞いていたんです……でも、ちょっと早く来ちゃいました。お邪魔じゃなかったですか?」
「いいえ、全然! あの娘が、ボーイフレンドを家に連れて来るなんて初めてっ。しかも、こんな素敵な男性……ホッソリとして手足も長いし綺麗な黒髪、それに今時のオシャレで、まるでモデルさんみたい……そういえば娘から、お歳も聞いていたんだけどずいぶん若く見えるのね……どう見ても20代にしか見えない」
「いえ……そんな大袈裟な……あの……今、病院だとおっしゃいましたよね。明愛花さんは、一体なんの病気なんですか? いつも薬を持ってるし、病気だとは聞いていたんですが。ずっと気になっていたけど、本人には聞きにくくて。それに彼女と会っていられるのはいつも2~3時間程度で、しかもいつも人気のない場所ばかりだし……」
「……」
明愛花母は俯くと、重たい表情で口を開く。
「あの娘は、自律神経の病気でね……。社会に出ても、周りの人とも上手くコミュ二ケーションが取れないみたいで……軽い対人恐怖症みたいなものね……だから今は、精神安定剤を飲みながら生活しているの」
「……精神安定剤なんて、学生時代とかに虐められてたのかな?」
「それならまだ……いいんだけど……実は……」明愛花母の意味深な言葉に緊張が走る。
「明愛花がまだ、高校2年生の頃に、父親とは離婚してるの。あの娘は、父親から暴力を受けたの、昔からお酒が入ると、何を仕出かすか分からない人で……あの人は娘にまで、男としての目を向けて……」
すると明愛花母は、言葉を詰まらせ黙り込んだ。おそらく、口が滑ってしまったのだろう。きっとそれがきっかけとなり、父親とは離婚したのだろう……と僕は悟った。
その後の話では、友人は疎か母親にでさえも、心を閉ざしてしまったらしい……。以来、明愛花は、トラウマを抱え続けているというのだ。そしてそのトラウマが原因で、人と長くいると極度の緊張により体調を崩してしまうらしい。
そのため、人との接触は3時間まで、というのが自ら得たルールだったのだ。