「花」のオーナーは六十歳近くのバーコードヘアーのマスターで、もうひとりのスタッフは高橋さんという三十代の男性二人で営んでいた。二人はただの仕事仲間ではない雰囲気が漂っており、高橋さんは投身自殺をした俳優の沖雅也に似た二枚目で、マスターが時々女っぽい目線を彼に向けているってことぐらいはわかった。
「花」はダッチコーヒーという水出しコーヒーが自慢で、私がコーヒーの美味しさを知ったのはこのお店のおかげだ。
毎日、午後三時ごろになると隣の「浴泉」のお姉さんたちから注文がくる。必ずアイスコーヒー三つ、アイスカフェオレが二つ。アイスカフェオレはガムシロップが混ざったアイスコーヒーの上にミルクがそうっと注がれて二層になっているので、出前の時は混ざらないようにトレーへ振動を与えずに運ぶ技術が求められた。カフェオレの二層を崩さないように気を付けながら、浴泉の広い正面階段を上がりきればひと安心だ。
お店の正面玄関の重厚な扉を手前に引いて入り、左手の受付を過ぎるとすぐにお客様たちがサービスを受ける個室のドアが並ぶ長い廊下が続く。
カーペットは深い赤、壁にはベースが深い緑色にゴールドという悪趣味なライン模様が施されてあって、各個室のドアはなぜかピンクにイエロー、水色に白などのパステルなカラーリングでそれぞれに色分けされていた。毒々しくてセンスのない色味のインテリアは今でもはっきりと目に浮かぶ。
特筆するべきは各部屋のパステルカラーのドアに直径三十センチほどの丸い窓がついていて、なんと部屋の中が丸見えだということだ! そりゃあマナーとしてお客さんがいる時に窓を覗くような度胸はなかったけど。誰もいない時にその部屋の中がどんな風になっているかをチェックしたのは当然である。
部屋はそう広くもなくて全体的にオフホワイト一色。部屋の奥には小さいけれど細長い湯船があって、手前の長いホースのシャワー付き洗い場には、寝転がれるほどのスペースがあり、スポンジっぽいマットレスが敷いてある。ちょっと立派な感じのゴールドの風呂椅子の座面には真ん中に大きめの穴が空いていて、なんだかおかしなデザインだった。
サービスを楽しんだ男性客が帰る時に、コーヒーを出前に来た私と鉢合わせることだって幾度もあった。そんな時、ほとんどの男性客が女子高生の私を見るや否や、逃げるようにして走り出すのが面白かった。
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特殊浴場のお姉さんに「なんで覗き窓がついてるの?」と尋ねると…背筋がゾクッとした。私が売り飛ばされかけた場所が、どういう場所だったのか肌で分かった。
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