【前回記事を読む】ひと太刀で首を斬り落とされた罪人…その瞬間、目隠しが外れて見えた素顔は、子どもの頃からよく知る"幼なじみ"の善造で……
若き日
「お奉行様、それではこれから漁師たちと相談して参ります。暫くご猶予の時をお願いいたします」
栄蔵は漁師の親方たちに集まってもらい、奉行の言葉を伝えた。それが拙(まず)かった。栄蔵は奉行の言葉をそのまま伝えたのだ。
「お奉行は、お前たちの冥加銭では桟橋の直しや市場の拡張は無理だ。いくら金がかかるのか分かっているのか。藩の財政は今逼迫している。火の車だ。それなのにこんな要求呑めるか。藩は漁師たちのために今までにどれほどのことをしてやったと思っているのだと、仰っておりました」
親方たちは、話を聞いていてだんだん腹が立って来た。一人の親方は、
「おらたちは無理なことを言っているんじゃねぇ。直すのはおらたちがやんだ。だーすけ材木だけ出してくれりゃいいんだ。舟の直しだっておらたちでやっている。船大工はいねぇんだーすけなぁ」
と言った。また、もう一人の親方は、
「そんだその通りだ。みんなおらたちがやっている。市場を拡げりゃおらたちの身銭だって増える。冥加銭だって増えるだ」
と相槌を打った。栄蔵は黙って聞いていた。
「ここは名主様、おらたちの言い分を通してもらいてぇ。おらたちゃ、今米の飯が食えねぇ。魚は獲れるんだが米の飯が食えなきゃおらたちは力が出ねぇ。魚を獲るにゃ力がいる。この凶作続きじゃ米が高うて買えねぇ。今は何とか魚と米の物々交換で飯を食ってる有様よ。カカぁやガキどもを食わさにゃならねぇだ」
と他の親方が言った。また他の親方が、
「名主様、おらたちの言い分が通らんば、冥加銭は出せねぇ」
と断言された。栄蔵は奉行のところへ報告に行った。
「お奉行様にはご機嫌麗しく……」
「挨拶はよい、それでどうなった。漁師たちは納得したのか」
と、奉行は栄蔵の顔を覗き込んだ。
「いいえ、それが……、漁師たちは自分たちの言い分を通してもらわんば、冥加銭は納められねえと申しておるる(おりまする)」
と、栄蔵は畳に頭を擦り付けた。奉行は、
「栄蔵、お互いの言い分を聞いて行ったり来たりしているだけでは、何もまとまらねえぞ。お前がお互いの妥協点めっけんば……。分かるか栄蔵」