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一週間も降り続いた雨がやみ、のっぺりとした空からは、細かく散らしたような光が射していた。六月の風は、肌にはりつくようで、まるで生き物のようだった。

その日、まち子は非番だった。遅い朝食をとってから、路線バスに乗って山頂に向かった。平日のせいか、バスに乗る人はほとんどいなかった。

曲がりくねった坂道を登るにつれて、次第に気温が下がってくる。風が出てきたかと思っていると、周囲に霧が立ち込めてきた。

三十分ほどで、バスは坂を登りきった。この辺りになると、風景は一変する。高原が広がり、霧の中にぼんやりと湖が見えてきた。周囲十キロほどのカルデラ湖だった。

水面に細かい波がたち、波が湖岸まで寄せていた。沖では、釣り人が小船を浮べ、竿をたらしている。この季節なら、ヘラブナかブラックバスだろう。

まち子は湖の北側水門でバスを降りると、湖畔に沿って歩いた。湖面に目を凝らすと、いくつもの魚影があった。魚たちは、銀色に鱗を反射させながら決まった方角へと流れていく。

しばらく歩くと、ミヤコワスレが群生していた。背の低い草が、薄紫色の可憐な花を咲かせていた。目を上げると、湖畔の対岸に瀟洒な建物が建っているのが見えた。欧州の古城のような、石造りの外観だった。もうずいぶん古いものだったが、会員制のリゾートマンションだった。

風がでて、霧が散り始めていた。

リゾートマンションを見つめながら、まち子は思わず目を細めた。

あそこには、かつてまち子が生まれ育った旅館があった。父がいて母がいて、数人の住み込みがいるだけの小さな旅館だったが、釣り人や夏の林間学校の小中学生を迎えて、それなりに繁盛していた。まち子はそこで生まれ、少女になり、大人になった。忘れ難い思い出の数々があった。

 

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