【前回の記事を読む】「君はそんなやつなんだな」友人のヤママユを壊した僕に、彼は怒鳴らず舌打ちしただけだった。帰宅後、僕は自分の蝶を粉々にし…
第一章 『少年の日の思い出』の隅をつつく
二 「試みた」とは?
「二重にしてくびにかける数珠」「ここではきものを脱いでください」など、どこで区切るかで意味が変わる言葉の例題はたくさんありますが、前回挙げた『そこで、それは僕がやったのだ、と言い、詳しく話し、説明しようと試みた。』……の傍線は、いったいどこで区切って考えれば良いのか、これに実は引っ掛かっています。
たぶんほとんどの人は、「①言った+話した+説明した」(そしてそれを全て聞いた後で「すると、」以下に続く)というふうに捉えるのが当たり前、と思っているのではないでしょうか。でも、だとしたら「と言い、詳しく話した」あるいは「詳しく説明した」で良いですよね?
そして何よりもなぜ、「試みた」という文末表現にしたのでしょうか? (ここで原文のドイツ語がわかれば良いのですがね。英語のTRYにあたるような単語があったのでしょうか?)
「話した」「説明した」と「試みた」を比べると、受ける印象がかなり違います。つまり、「試みた」という表現には、「成功しなかった」というニュアンスがかなり強く感じ取れます。だとしたら、成功しなかったのはどの部分なのか?
別の区切り方として「②言った+話した。さらに説明しようとしたがうまくいかなかった」という考え方もできます。しかしこれだと、「話した」と「説明した」の内容は、一体どう違うのか。いずれにしても、この状況で主人公がエーミールに話す、あるいは説明するべき内容は以下のようなことになると思われます。
(一)自分もクジャクヤママユが好きで好きでたまらなかったこと。
(二)せめて一目見せてもらいたいという気持ちで来たこと。
(三) 部屋の鍵が開いていたので、一目見るだけのつもりで勝手に部屋に入ったこと。
(四)見ているときに出来心でどうしても欲しくなって持ち出したこと。
(五) つぶすつもりは全くなく、物音に怯え、慌てて起きたアクシデントであること。
(六)エーミールに許してもらえるよう頼みにきたということ。
……他にも考えられますが、まぁ最低限これくらいのことは伝えようと「試みた」のでしょう。しかし、そうなるとやはり「話す」部分と「説明する」部分を分ける必然性がますます感じられません。