【前回の記事を読む】脚フェチの彼に、いつまでも脚を撫でられた…頬ずりされ、舌を這わされると、私は痺れて動けなくなってしまい……
霧のみずうみ
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どれくらい時間が経っただろうか。玄関を叩く音で、まち子は目を覚ました。時計を見ると一時を過ぎたところだった。ずいぶんと眠ってしまった。そろそろ、仁明亭に行かなければならない時間だった。
「どなた?」
玄関のドア越しにまち子は声をかけた。
「お母さん、わたし」
娘の佳織だった。東京でITコンサルの会社に勤めている佳織が、平日のこんな時間に訪ねてくることは珍しい。まち子は崩れた髪を整えながらドアを開けた。
「どうしたの? 仕事はお休み?」
佳織は、いつものように長く豊かな髪をくるくるにウェーブさせて、グリーンのワンピースに紺色のレギンスをはいていた。足元は、夏向きのメッシュの入った踵の高いヒールだった。久しぶりに見る娘の姿だった。
ワンピースもヒールも悪くないと思いながら、どうして脚を隠してしまうレギンスなのかしらと思った。
「プロジェクトが一段落したから、今日から三日のお休み」
「そうなら、連絡をくれたらいいのに」
佳織の顔を見るのは、去年の盆以来だ。華やぐような笑顔が、母親を見た。
「前もって連絡したら、いろいろ気を遣わせるでしょう」
「そんなこと」
まち子は言いよどんだ。
「お母さん、仕事中でしょう。わたしは勝手にくつろぐから、気にしないで」
「くつろぐって、こんなところで……」
まち子は、娘が帰省する家が、こんな二間しかないアパートであることを申し訳なく思った。
「いつ見てもいいわね、この風景」
佳織はそう言いながら、カーテンの開いた窓の外を見やった。遮るものが何もなく、山々の稜線が見えるこの眺望があったから、この部屋を決めた。
そのときまち子は、娘の目元にかすかな陰りを認めた。嫌なことでもあったのか。あるいは疲れが溜まっているのか。余計な母の勘繰りかもしれなかった。
「ごめんなさい、休憩中だったわね」
佳織は、無造作にのべられた布団に目をとめて言った。
「いいのよ、もうお客のお出迎えの時間だから支度しようと思っていたところ」
「そう。相変わらずの働き者ね」