「電車は朝まで動かないと言うし、困ったものですね」
もう一度声をかけると、女はようやく英介に振り向いた。
「ええ。本当に」
その細面の顔は、少しばかり頬が下膨れして、細い顎にちょうどよい大きさの唇があった。目は優しげで、はっとするような顔立ちだった。
「どちらまで?」
「金沢へ」
「そうですか、僕と同じですね」
そう言って英介は、女の顔をもう一度見た。目の奥にある黒目が印象的だった。
「まだ、付近の宿は空いているみたいですよ」
「そうですか」女は、小さく頷いた。口元の紅が、少しはげ落ちていた。
「よかったら、予約しましょうか」
「いいえ、結構です」
女は申し訳なさそうに言った。
「でも、ここに朝までは、大変でしょう」
英介は、女の身につけている仕立ての良さそうな着物を見ながら言った。
女は、少し考えるような顔をして、恥ずかしそうに言った。
「お金をもっていないんです」
その言い方が、どこか切なげで、英介の心に、どうしようもない衝動が生まれた。
「よかったら、ご一緒しませんか」
英介の心に、思うところがなかったといえば嘘になる。しかし、自然に口から出た言葉だった。女の顔の柔らかい輪郭と、細い目の感じが、どうしても気になった。かなりの美人だったが、こういう顔に、初めて出会った気がした。
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15年前に一夜を過ごした女と、夜の旅館で二人きりに。「今夜は、ゆっくりできますか?」彼女を見ていると、胸が熱くなってきて……
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