「私は帰ったら職探ししないといけないから」

「ああ、そう言ってたね」

咲元は優しく微笑んだ。本当に、つい数時間前に会ったばかりとは思えないほど意気投合していた。朝食バイキングの後、一度ホテルの各部屋に戻ってからまた出かけたのだが、やはり隣だったのだ。

つい昨夜、あの彼女と愛し合っていた男の誘いを何故キッパリ断らなかったのか、紫自身にもよく分からなかった。いやらしい感じがなかったとは言え、無謀だろうに。まあ売られるような年でもルックスでもないし、早々に無職だと言っておいたから、金目当てでもないだろうけど……。

ただ、ちょっとした好奇心、言ってみれば非日常を楽しみたかった、現実を忘れたかった。それだけだ。それは咲元の方も同じだろう。

「彼女からラインとか、ないの?」

現実に引き戻すようなことを、敢えて言ってみた。ホテルの部屋から、彼女の荷物は消えていたのだ。さすがにメッセージの一つもあっていいだろうに。

「あったねえ」

咲元はどうでも良さそうに言った。

「何て? あ、答えたくないならいいけど」

「いや、別に……もう会わないってさ。だから分かったって、送ったよ」

「近くにいるのかしら?」

咲元は首を振って、

「新幹線から送ったみたいだ。さあもう彼女のことはいいから。次はどこに行こう?」

と話を変えた。

 

「大人の恋愛ピックアップ記事」の次回更新は10月3日(土)、19時の予定です。

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