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七月中旬、麻田はラグビー部の先輩笠井と長野にいた。笠井が山に別荘を買うためだ。麻田は長野に土地勘もなかったが、笠井の「来い」の一声で決まった。

ラグビーは、試合中は先輩後輩関係なく対等で呼び捨てだが、ノーサイド——試合終了——とともに縦社会に戻る。「ノーサイド」の趣旨に矛盾するが、昔のラグビー部とはそういう世界なのだ。

長野は広い。二日かけてレンタカーで移動しながら数軒内見した。最後の物件を見終わると麻田は笠井を茅野(ちの)駅まで送り、駅のそばのカフェに入った。

一時間後、入れ替わりで来た由那を乗せ、麻田はビーナスラインへ向かった。

今日は蓼科、車山高原、霧ヶ峰へ行き、夜は諏訪湖畔の温泉旅館に泊まる。

「新しい仕事はどう」

由那は先週やっと、赤道の秘書になったことを報告してきた。

「楽しい。毎日学校行ってるみたいな感じ」

たしかに赤道の話は楽しいだろう。

「緑さんね、なんと、前世では私のほうが先生だったんだって。すごいでしょ」

「え、由那が先生なの?」

「そう。前世と今世で立場が反対になることもあるみたい」

車山高原はニッコウキスゲが満開だった。オレンジ色のユリだ。見渡す限り丘陵地がこの色に染まっている。

「すごーい」

カフェのテラス席で由那は大きな伸びをした。ランチがまだだった由那はドリアを食べながらマヌルネコの愛らしさをしきりに説いた。

最古のヤマネコの一種だが、丸っこい体型で、俊敏なヤマネコの中では群を抜いてブサカワだ。

「そういえば……」

ドリアが終わると、由那は言いよどみ、アイスカフェオレのグラスを見つめ、

「クマちゃんはどこまで聞いているかな、緑さんの過去」

「過去? 医者だったこと?」

「……そっかぁ」

「旦那さんが旅に出て、自分も旅に出た、とは聞いた」

麻田は足を組んで木の椅子にもたれ、椅子を前後に揺らした。

「旅かぁ」

「うん。謎だけどね」

麻田の椅子はリズミカルに小さく軋んだ。

「じゃあ……、緑さんが旦那さんを殺しちゃったって、知らないか」

「えッ」

揺れていた椅子の脚が音を立てて床に落ちた。

「いま何て?」

由那は麻田と目が合うと、

「ちゃんと最後まで聞いて」

次回更新は10月13日(火)、11時の予定です。

 

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