高倉の住まいは七階建てアパートの最上階、いわゆるペントハウスで、広さは二五〇平方メートルに三つのベッドルームとダイニングルーム、リビングルーム、キッチン、二つのバストイレという構成になっている。ペントハウスそのものはもちろんのこと、調度品、備品すべて家主からの借り物である。
客や出張者など多人数の訪問に備えて、ダイニングとリビングが必要以上に広い。
この住居にはベッドルームのパニックボタンのみならず、建物そのものに複数の防犯対策が施されている。
リボニアロードという広いメイン道路から脇道へ入り、左折してすぐ右折すると、三十メートル先に高倉が住むクラスターの出入り口の門が見えてくる。
ここから三段階の防衛線が始まる。
高電圧線を張った高い塀でぐるりと囲まれる中には、七階建てアパートが三棟あり、それが一つのクラスターを形成している。
出入り口は一か所で、住民はリモコンで、住民以外の訪問者は門番がチェックして門を開ける。
リモコンで門を開けるとき、自動的に閉まるまでにちょっと間がある。その間に次の車が続いて入ることがある。だから事前に後ろに車がいないことを確認してから開ける。いる場合はUターンして、仕切り直しをする。これが三段階の内の第一次防衛線だ。
中に入ると、高倉が住むアパートの地下駐車場のシャッターがあり、これをまたリモコンで開ける。そこから階段あるいは共同のエレベーターがあるが、高倉の場合は専用のエレベーターがあり、住居内に直行できるシステムになっている。これが第二次防衛線である。
そして住居の中の窓という窓には防犯用の鉄格子がついている。窓だけを見ればまるで刑務所だ。その他アラームやベッドルームのパニックボタン等で第三次防衛線を形成している。
他のクラスターも同様に、二重三重の防衛対策をとっているが、それでも武装強盗に入られるケースが後を絶たないという。
強盗に縛られてトイレに押し込まれ、全ての貴重品、電気製品を持って行かれた日本人が何人かいる。殺されなかったのが不幸中の幸いとのことだ。
ことほど左様に、この国には犯罪が多い。在南アフリカ日本国大使館の安全情報によれば、二〇〇四年度一年間の武装強盗事件は十二万七千件、殺人事件は一万九千件発生している。
誰のせいでこんなに多いのだ、何とかしてくれ、と高倉は言いたくなるが、今は犯罪が多いのを憂いている場合ではない。