イギリス流のジェントルマン・アグリーメントを反故にすれば、今後このブリット銀行から関係を一切断ち切られる可能性がある。それは高倉が前にイギリスに駐在していた経験からわかっている。

もしブリット銀行との関係がこじれて、自社に重大な影響を及ぼす可能性があるならば、慎重に対応しなければならない。

この点を高倉はブリット銀行訪問前に、カンパニー・セクレタリーのアンドルーに相談していた。彼の返事は、

「ブリット銀行との取引はわずかです。ほとんどの取引はこの南アフリカの四大銀行とやっているので、関係がなくなっても問題はありません。またこの四大銀行に対するブリット銀行の発言力や影響力もありません」

とのことであった。だから高倉は自信を持ってコナー氏に向かった。

「コナーさん、早めに言っておいた方が、あなた方のこれからのマドールタイヤ社への投資判断の参考になると思います。マキシマ社はマドールタイヤから五百万ランドを払ってもらわなければなりません。これがすべての取り決めの大前提です。またマドールタイヤ製品の引き取りについては、あくまでもマーケティングの考え方で実施します。

つまり我々がこの南アフリカ市場で売れると判断する製品のみを、売れる本数だけ買い取らせて頂きます。そして我々の直営販売店を通して売って行くということです。マドールタイヤ製品全てを買い取るということはありません。それからパートナー契約の件ですが、これはケニー・ブライアント個人の事案であり、マキシマ社とは何の関係もありません」

「ケニー・ブライアント前社長の約束を、あなた方は守らないつもりですか」
コナー氏の口調が少し厳しくなって、ロッドの方を向いた。ロッドは下を向いたままだ。

「そうです。ケニーが言ったことは白紙に戻したい」
高倉は言い切った。

「ミスター・タカクラ、ジェントルマン・アグリーメントという言葉はご存知だと思います。この南アフリカはイギリス領であったのでイギリス流の商習慣が根付いています。契約書の形になっていなくても、ジェントルマン・アグリーメントはとても重いです」

「コナーさん、残念ですがそのアグリーメントはなかったことにして頂きたい」

きっぱりと言って、ブリット銀行CEOのコナー氏との面談を終えた。
その時点で彼は次の二点を決断していた。

一点目は、原材料供給の停止を再確認し、本年分未回収の二百万ランドを三月期決算で不良債権として損金処理する。二〇〇三年九月度ですでに三百万ランドの損失と合わせて、マドールタイヤからの不良債権は五百万ランドもの大金となる。

これだけの損失を出したら、当然親会社の七洋商事に対して『始末書』を高倉名で提出しなければならない。

おれがやったことではないが、めぐりあわせだ。仕方がない、と腹をくくった。