五
二人は翌日ヨハネスブルグへ戻ると、その週の金曜日にロッド・モーローと共にブリット銀行を訪問し、ピーター・コナーCEOと面談した。
ブリット銀行本社はS地区の高層ビルにあり、その最上階の一室に通された。
窓から見える大通りのジャカランダ並木は、紫の花をもう散らしてしまい、今は緑に覆われている。
すぐ近くには、高倉が秋山と食事をしながら打ち合わせをした、あの巨大なショッピング・モールがある。
遠くヨハネスブルグシティーの高層ビル群が望める。
ビルも道路も、街全体が整然と整備されており、とてもアフリカとは思えない景観である。
応接室の扉が開いた。
銀行のトップというとロマンスグレーを想像するが、CEOのピーター・コナー氏は意外に若く快活な感じの白人であった。腹が出っ張った南アフリカ人らしくはない。細身だ。
通常南アフリカではビジネスマンでもネクタイをしないケースが多い。だがさすがに銀行マンだ、きちっとネクタイを着用している。
不要とロッドから聞いていたが、高倉は念のためと思ってネクタイをしてきて良かったと思った。
コナー氏は面会早々、
「誠に申し訳ないですが、急用が入ったので、この面談は十五分間にして欲しい」
と言った。
それで高倉は余計な話は省いていきなり本題に入った。
「あなたの銀行はモザンビークのマドールタイヤに資金援助をされると聞いていますが、その理解で正しいでしょうか?」
「そのご理解で結構です。モザンビーク政府には既に正式に意思表示をしています」
と、コナー氏は躊躇することもなく答えた。
「なるほど。そうすると投資金額はおおよそどの位になるのか、差支えなければお聞かせ頂きたい」
「それはまだ決定していません。現在マドールタイヤのデュー・デリジェンス(価値査定)を実施中です。これによって投資金額が決まりますが、ブリット銀行の投資はその半分になります。これは我々だけではリスクがありますので、パートナーが残り半分を負担します。パートナーの中には、マキシマ社も入っております。あなたの前任のケニー・ブライアント氏からお聞きになっていると思いますが」