デュー・デリを現在実施中ということは、その結果によっては投資に値せず、としてやめるケースもあり得る。そうしたらマドールタイヤは倒産し、売掛金は永久に戻ってこない。
それにしても、前社長のケニー・ブライアントは会社に内緒でとんでもない約束をしていた。何という奴だ、許せない。もしかしたらここにいるロッドもケニーの片棒を担いでいるのかも知れない。
高倉は、そう思い、怒りが沸々と湧いてきた。秋山もあきれたような顔をしている。
「私はこちらに着任したばかりで、お恥ずかしいことですが、前社長のケニーとはまだ充分な引き継ぎが出来ていません。そこでお聞きしたいのですが、投資金額だけではなく、投資そのものを実行するかしないかについてもデュー・デリ次第で、別途投資家間で打ち合わせるということですね。その他に買収の条件の様なものはありますか」
「投資そのものをやめるということはないと思います。その条件というのは……」
コナー氏は少し考えて、言った。
「マドールタイヤはご存じの通りタイヤの製造会社です。自身で製品を販売する力はありません。従って、生産したタイヤは全てあなたの会社、つまりマキシマ社が買い取って、あなた方の販売ルートで売って頂くことが条件になっています」
これを聞いて、なるほどそういうからくりか、と高倉は身を引き締めた。
「重ねてお恥ずかしい話ですが、そのような条件もまだ知りませんでした。それはコミットメント(約束)になっておりますか?」
「そうですか、まだそこまで話を聞かれてなかったのですね。御社の前社長のケニー・ブライアント氏から確約をもらっています。何しろ我々はタイヤの素人ですから、それがなければこんな投資は出来ませんよ。そうでしょう、ロッド」
と、ロッド・モーローの方を向いて相槌を求めた。
ロッドは下を向いて返事をしなかった。
どうやらロッドもこの約束にかかわっているようだ、そう感じながら、高倉は聞いた。
「その契約文書はありますか?」
「いえ、まだ契約は交わしていません。いわばジェントルマン・アグリーメントですね。ケニー・ブライアント氏が突然御社を退社されたこともあって、タイミングを逸してしまったのです」
まだ契約文書になっていないのは幸運だった。
いくらケニーが約束したことといっても、これは絶対にやめなければならない。
今ここで、はっきりと釘を刺しておく必要がある。