タイヤを売掛金代りに売りさばき少しでも損を取り返さねば

五

翌日午後、高倉と秋山はモザンビークの首都マプートへ飛び、車で先回りしたシェーンの出迎えを受け、早速マドールタイヤへ向かった。

マドールタイヤはマプート空港からそう遠くない所にあり、三十分ぐらいで到着した。
正門には黒人警備員が二人立っており、シェーンが車から降りて警備員と話をして戻って来た。門の中には人影がなく静まりかえっている。

「工場は操業していないそうです。オフィスには二、三人いるようですが、どうしますか？」

シェーンの報告に、高倉は即座に言った。
「オフィスに行こう」

正門から入ったすぐの所にオフィスがあり、その奥に工場の大きな長い建物が隣接している。
がらんとしたオフィスで三人だけが執務中であった。東京のオフィスでの休日出勤のような光景で、高倉に一瞬懐かしさがこみあげた。

執務中の白人の一人が応対した。シェーンとは顔なじみのようである。名刺を見て秋山が言った。

「アドミニストレーション・マネージャーと書いてありますから総務課長という所ですかね」

シェーンがマキシマ社の新社長である高倉と秋山を紹介すると、総務課長は、

「この工場は操業停止して一週間になります。現在モザンビーク政府が支援先を探しています。それが見つかればいいのですが……」
と寂しそうに説明した。

「我々は原材料の代金をまだ払ってもらっていないが、どうなりますか？」
と秋山が聞くと、総務課長は、
「私は購買とか経理のことは知らないが、もしそうなら申し訳ないことです。しかしこの状況ですから……」
と、済まなそうに頭を少し下げた。

「南アフリカのブリット銀行というのを知っていますか？」
高倉が聞くと、名前だけは聞いたことがあるとのことだ。

工場の中に入れるか尋ねると、
「稼働していないが、それでよければどうぞ」
と、工場への入口の扉を開けてくれた。