まるで雑巾のように投げられ続ける郷田は遂に情けない悲鳴を上げた。

「痛たったたたっ! や、やめてくれ!」

すると結城は素早く郷田を畳の上にねじ伏せる。郷田は結城を振り払おうとするが、力がまるで入らない。結城は郷田に無表情な顔を近づけ、

「犯人は手加減なんかしませんよ」

そう言ってひひひ、と薄気味悪く笑う。郷田はぞうっとして泣くように言う。

「勘弁してくれ!」

その時道場の扉の外では、第一道場で自習していた生徒たちが集まっていた。皆が練習していると、第二道場の方からドスンバタンと聞こえてくるので、何事かと集まってきたのである。そして扉を開けようとしたのだが、中から鍵がかかっている。おーい、と一人が扉を叩いたのだがその途端に、

「ぎゃあああああ!」

と、凄まじい悲鳴が聞こえて皆、飛び上がった。

なんだ! 誰だ!と皆が口々に言っているところに、

「こらあっ! 何をやっとるのか!」

と、柔道教官の怒声が響く。皆、二度飛び上がり教官が扉の鍵を開けると、郷田がよろめきながら飛び出してきて、

「た、助けてくれ! ば、化け物ーっ!」

そう叫びながら、廊下を飛ぶような勢いで走って行ってしまったのである。皆ぽかーんとして道場の中を見たが、そこにはもう誰もいなかったのである。

その後、教官は郷田に何があったのか訊いたのだが、いくら厳しく問い詰めても郷田はぶるぶる震えて、何でもありませんとしか言わないのである。業を煮やした教官は管理室に行くと、難しい顔で事務職員に言った。

「第二道場の防犯カメラ映像を見せてくれ」

第二道場?と訝し気な事務職員に他の教官も寄ってきて、盗難事案ですかな?などと言いつつ皆で再生映像を見始め、結城が郷田を投げているのに驚きの声を上げるが、柔道の教官がこともなげに言う。

「あいつ、合気道五段なんですよ。これでも手加減していると思いますよ。でないと骨折や脱臼させる恐れがありますからね」

そう言われそこにいる全員、ぞうっと震え上がったのである。これが後に郷田事件と言われる事の真相である。

後で録画を見せられた担当教官はすぐに結城と郷田を教官室に呼び出した。教官は額に青筋を立てて

「何をやっとるのか!」

と二人を叱責するが、郷田はぶるぶる小刻みに震えながら正面を向き、突っ立ったまま黙っているし、結城は結城で、

「自分たちは逮捕術の自習をしていただけです」

そう言ってちっとも謝罪しようとしない。教官はなめられていると思ったらしい。二人に謹慎と休日の外出の取り消しを言い渡したのである。

次回更新は10月7日(水)、7時の予定です。

 

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