「ゆうすけさん、声がでかいところがいいですねえって、他にもっとあったやろって思いっきりツッコんだわ」

彼は他人と距離を縮める天才だった。会社のエレベーターで同期と会話が続かない時など、彼がいてくれれば心強いかもしれない。いつもは勝手に肩身の狭い思いをしながら、「私たちは静寂を共有できる仲なんだ」と自分をフォローしていた。

「そんで、どうよ。俺のいいところ」

言葉は悪魔、沈黙は天使。余計なことを口にすれば死ぬとさえ思っていたが、もしかすると、余計が生み出すものもあるのかもしれない。そうだなあ、と言いかけたところで、やにわに大音量でハッピーバースデイが流れはじめた。遠くの個室で虹色の喝采が上がる。

ゆうすけさんは両手を口に当てて「おめでとう!」と、果汁のような祝福をほとばしらせた。

自分たちがなにを話していたのかも忘れて酒を飲んだ。そのあと彼はヒーローインタビューを受ける選手のように誇らしげな顔で、職場のことや将来について語った。

周囲が男性ばかりで、三十代で結婚していないのは自分だけだと笑う。その言葉に圧迫感を覚えた。そして彼の目に糸口を探るような色があって戸惑う。なにもない腹の中を探られても、ないものはなかった。希望もたくらみも下心もない。今日の食事に夕食以上の意味を含ませるつもりはなかった。

その日は申し訳なさすら感じながら店をあとにしたが、しばらくして、やはり奢ってもらったお礼をするべきではないかと思った。

「うちの部屋から川が見えるんよ。暗くなると、夜景なんかが向こうに見えてさ」

彼はメッセージで自分の部屋についてよく語った。私も文面から間取りを想像し、テレビの大きさやベランダの広さについて積極的に質問した。決して

「来て」

とは言わないが、そんな予感が薄雲のように漂う。自分もその気配に色を重ねた。二人で一枚の絵を仕上げていくような感覚にのめりこみ、一度は本当に部屋に行こうかと思ったが、やり取りが長引くにつれて億劫になっていった。拒まれているような気さえしてくる。実際に行けば迷惑にすらなるのではないだろうか。

 

もっと深く、もっと激しく――大人の恋愛ピックアップ」の次回更新は9月17日(木)、22時の予定です。明日の夜22時もこちらのページでお待ちしています。

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「父がまだ正気だった時「頭と腹だけは守れ」と教えてくれた。あの時もし、言うとおりにしてなかったら…

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