【前回の記事を読む】「どの部屋にする?」選んだのは、大きなベッドに小さな冷蔵庫、広すぎるバスルーム。浴槽の前で促されて服を脱ぐと…

飛燕日記

ぞんざいに身に着けたバスローブは、脱がされて床に折り重なった。背伸びをして痛いほどに顔を上に向けると、絡めとられるようなキスをされる。手が絶妙なタッチで背筋を這い、膝から力が抜けそうになった。今まで何十人もの女性にこうして触れてきたのだろう。人のいいところを知りつくしたような、慣れた愛撫だった。

「どこが気持ちいい?」

冷えたシーツで身体を休め、火照りを鎮めたかった。中は隙間なく密着し、擦れる箇所すべてが熱を持っている。呼吸も精いっぱいなのに、どうしてほしいかとか、気持ちいいかと聞かれて、恥ずかしさでどうにかなりそうだった。

()れたように、ねえ、ともう一突きされて嬌声を上げた。黙っていればまた急かされる。言葉にならない声で答えると、再びピストン運動がはじまった。逃れられない熱に懐柔されていく。もう何度いっただろうか。身体中で泡のような快楽が弾け続け、感度はとっくにおかしくなっていた。

この行為ははじめてではないのに、まったくいつもと違う。彼は次第に動きを速めていった。体温が、呼吸が、重なって混ざりあう。荒波のような快楽に揉まれ、不安と激情に飲みこまれた。やめてとも、もっとともわからない声を上げてしがみついた。腕をほどかれ、腰に指を突き立てられる。鳥肌が立った。彼は私を見下ろしながら果て、私もまた達した。いつの間にか目を閉じていた。半身を起こすと、大の字で寝ていた彼に腕を引かれる。

「気持ちよかった?」

これが演技だと思っているのだろうか。頷くと、また会ってくれるかと聞かれた。それにも、うんと答える。さらに、なんでと聞かれた。酸欠と快楽の余韻で頭が回らない。けれど、よほど問題が起こらないかぎり、そうするように感じた。

「大きかったから」

そう言うとなぜか、タツマさんは少し傷ついていた。家に帰ってから、逆に連絡を切られるかもしれないと危ぶんだが、それから二週間後に会った時には、なぜか職場の名刺をくれたのだった。年が明けると再びマキさんと会うようになり、タツマさんとも月一か二で会い続けた。それだけ運動すれば空腹になるのは当たり前で、食事に行く相手を探すのも当然だった。

今日は、大阪出身のゆうすけさんと小学校風居酒屋に来ていた。通された個室は保健室で、壁には白衣がかかっている。この街に飲食店は掃いて捨てるほどあったが、ここ以上にカオスな場所を他に知らなかった。

だからたとえ店員に顔を覚えられようとも、高尚なくらいに低俗で、鈍麻(どんま)るほど刺激的な行為を続けるかぎり、またここに来るだろう。なんと言ってもトイレまで学校風に作られているのだ。

「お互いのいいところを言いあわん?」

ゆうすけさんは、オレンジ色の大阪弁で言った。

「いいところ」

自分の価値も見出せない人間が、初対面の人間のいいところを探す。その提案に皮肉さすら感じたが、同時にわずかな可能性も見出した。彼は生まれたばかりのような目でこちらを見ている。

「いやね、ちょうど会社の同僚たちともやったんよ。そしたら普段話さん人間の色んな面が見えてさあ。俺のことそんな風に思ってたん? みたいな発見もあって」

「なんて言われたんですか」