俳句・短歌 歌仙 2020.10.18 歌集「ひとり歌仙」より三首 ひとり歌仙 【第12回】 田中 靖三 “気がつけば超電導の虜なり” ――科学と日常を結びつける新しい文芸の形。 電気抵抗ゼロで世界に革新をもたらす夢の科学技術「超電導」。日々刻々と新しい技術に取って代わられる科学の世界において、人の寿命にも伍する100年以上の歴史を刻む「超電導」を、「5・7・5」の長句、「7・7」の短句を詠み重ねる歌仙方式で花鳥風月を織り交ぜ、詠いあげる。科学叡智の結晶「超電導」は、歌仙の響きと共にやさしく世界に溶けていく。 松尾芭蕉が作り上げたと言われるこの型式の、独吟による「ひとり歌仙」を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 和蘭の空いういうと風車 己が父なるカマリンオンネス 液ヘリが超電導の母なりて そもそもデュワーの十年敵 切炬燵息子に語る超電導 年越しそばの咽喉をするする
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『レッド・パープル』 【第12回】 そのこ+W 分家と立場が逆転…。だが、嫌がらせをしてきた男が死んでいるのが発見された 戦後四、五年経つころからようやく人も物も回復の兆しを見せ始め、そこへ朝鮮戦争特需が加わって日本経済は息をふき返しつつあった。以前神林の会社で働いていて戦争を生き延びた船員も会社に戻って来た。彼はそれらの元船員を米軍の運搬船に貸し出した。彼は地元の信用金庫に融資を頼んだが、担保が少ないという理由で貸し渋られていた。窮余の策として目を付けたのは、同じ鶴前の海運会社を経営する乾(いぬい)芳雄(よしお)…