2 椅子の背中、一枚分

 

「こないだの話、考えといてくれたか?」

「このあいだの話って?」

「俺が一人でするところを、見ててくれるか? 準備はしてきてるねん」

私は正直に謝ることにする。

「ごめん。まだ決心できてない」

それにしても準備って?

「そうか」

彼は特に落ち込む様子には見えなかった。準備してきたと言っているにもかかわらず。

「じゃあ、後ろを向いてても、目を閉じててもいいから、俺の近くにいてくれるか? 同じ部屋の中にいてくれるだけでいい」

「なぜ?」

「あんたに、俺のことが怖いか怖くないかを確かめてみてほしい。あんたは、男の人が怖いから別れてほしいって言ってたけど、試しに本当に俺のことが怖いかどうかを確かめたらいいと思って。そこにいてくれるだけでいいから」

止めなかったら今にも一人だけで始めてしまいそうな調子の彼を前にして、私はあわてふためいてしまう。いくらなんでも。

「待って、今からは無理」

「無理か」

「もう少しハードルが低そうなことをしたほうがいいよ絶対」

「ハードルが低そうなことって、例えば?」

「それは、例えば」

言いながら私は考える。何がありうるだろうか。

「やっぱり、キスとか?」

「あんたがキスしてくれるんか?」

「それはまあ」

キスだったら怖くない、かもしれない。してみなければ分からないけれど。

「ほんならキスしてくれるか」

彼は室内に置いてあった椅子を少し移動させて、椅子の背をまたぐようにして、通常とは逆向きに座った。あごを少しだけ上げて、私のほうを向いて目を閉じる。両腕は、椅子の背に預けるようにしている。

もしかすると、椅子の背を乗り越えて私に触れてきたりはしないという暗黙のポーズなのかもしれない。考えすぎだろうか。

 

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ホテルでキス寸前、彼氏は「無理はしなくていい」と目を開けた…戸惑う私に「俺の体で触ってみたいところとかないか?」と……

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