【前回の記事を読む】初めて届いた女性からのファンレター…喫茶店で待っていた相手は、まだ高校生だった。戸惑う俺に彼女が口にしたのは……
第一章
一人のファンの少女
彼女はときどき、ファンレターを送ってきて、たまに友人と一緒にジムに練習を見に来るようになった。それが飽きることなく、ずっと続いている。
ファンレターの書き出しは、いつも
『新山さん、お元気ですか?』
ジムの後輩の四回戦のプロボクサー船山が俺に、手紙を手渡しながら言った。
「この娘(こ)、熱心ですね。新山先輩のことが本当に好きなんだ」
悪い気はしない。ボクシングシューズの紐を解きながら、片手で手紙を受け取る。
「今度、デートに誘ってやればいいじゃないですか? 喜びますよ、彼女」
「はあっ?」
そのとき、俺は二十四歳で、日本タイトル二度目の防衛戦が終わった直後だった。
「そう?」
「そうですよ。当たり前じゃないですか! 先輩は本当、女心がわかってない」
後輩の船山一良は、屈託のない笑顔でそう言った。
船山はとても努力家で挫折と再起を繰り返し、俺が引退した四年後に日本フライ級チャンピオンになった。
彼は、さっきと違う笑みを浮かべ
「よく先輩の練習を見に来てる娘(こ)ですよね。僕だったらあんなかわいい娘(こ)、他の奴に取られる前に手をつけちゃいますね」
「お前、何言ってんだ! あの子、高校を卒業したばかりで、本当に子供なんだ」
なぜかわからないが、ムッとした。他の男に彼女をそんな風に言われたくない。
俺の周りにいる飲み屋のホステスや、ギャンブルをする場慣れした女たちと一緒の言われ方に、なぜか腹が立った。