青いバラを見た日、二人は以前と同じ「門や」へ行った。
席も同じ奥まった一角だった。田村は、美智子が花屋から会社の園芸部に転職してくれた礼だと言った。
それどころか、お礼を言いたいのは私の方です。勤務条件も給与も良くなりました、ありがとうございましたと頭を下げた。
「しかし、日に焼けるし手は荒れるし、女性に好まれる仕事ではないでしょう」
「私はもともと百姓の出ですから……」美智子はさりげなく応えた。
「久しぶりの日本で、こうして静かなところでゆっくり食事ができるのは良いものだな。
大陸アジアは活気があるのだが、ぼくには疲れることがあります。歳のせいかな」
「ネクタイ、ゾウの柄ではないのですね」
「もう話題に詰まる心配はないから」
田村のネクタイは深い海を思わせるストライプだった。
「ブルーは奥様の趣味ですか。政治家でそう言った方がいました」
「いや、三年前に亡くなりました」
▶この話の続きを読む
「主人は田舎に帰りました」と伝えたら、彼は「あなたのことをもっと知らなくてはいけないな」と…
【イチオシ記事】見つめながら、触れたいという不思議な感情が芽生えた。あの人の体に、頬に、髪に、唇に。緊張感のない弛緩しきった肉体は、無警戒な心そのものだった。
ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp