初めて空を飛んだ日からほぼ半年。待ちに待った春一番が吹いた。
つばめは南から北をめざすのだろうが、私は南をめざす。いよいよ四国を、そしてあの日あの時間の少し前のあの団地をめざすのだ。
時を超えて「てる」に会いに行こう。お節介になるかもしれないがそれでもいい。私は『幸福の王子』のつばめになりたい。
あらかじめ四国までの経路に沿って今夜の天気を確認した。幸い関東から西日本はほぼ快晴で月明かりもちょうどいい感じだ。タイムリープをするのだから当日の天気が問題なのだが、昔すぎてよくわからない。飛行の無事を祈りつつ、何かあってもこれまでの訓練と経験で乗り越えるしかないだろう。
多摩川が黒く沈んだのを確認して着替え、ベランダから空へと飛び出した。川沿いに斜めに上昇すると、遠くに東京タワーのオレンジを見やる。旅の安全を祈ることが、いつの間にかルーティンになっている。旋回して頭を西に向けた。
当日の高松は冬だし、安全を考えてタイムリープをするならなるべく現地に近いほうがいい。タイムリープではある程度の距離もワープできるから、神戸あたりから〝跳ぶ〟のがいいだろうと計画していた。
疲れ方はイメージできている。距離のワープを使って愛知まではひと跳びに行こう。
愛知と大阪で休憩を取って、一気に神戸まで来た。ポートピアのホテルの屋上に腰かけ、Y-3の内ポケットからスマホを取り出す。体が重くならないよう、唯一の荷物だ。
そこには中学二年生のときの集合写真と、クラスメイトとの写真があった。遠足ではなく、教室で撮影されたものだ。まだスマホもデジカメもない時代だ。
写真部の誰かがカメラを持ち込んだのだろう。その中の1枚にクラスメイトと共にふざけあう「てる」と私の笑顔があった。「てる」の夏服のリボンは、左がちゃんと跳ねていた。
私は「てる」とテストの点数を見せ合い、歴史への情熱を聞かされた放課後の情景を思い出した。二人で団地まで歩いた夕闇の道を思い出した。
そしてあの日に辿り着くために、平井君がくれた日の電話を思い出し、その前日を強くイメージした。
12月10日、午後11時。間に合わないといけないから、少し早目の到着をめざそう。