長い沈黙の後、直保は白いワイシャツの袖で顔をぬぐうと口を開いた。
「……珠子さん、すみませんがよろしくお願い致します。
仁がここに逃げてきて、よく分かりました。葉山の家で姉がしている恥ずかしい暮らしに、僕はこれ以上子供たちを巻き込みたくありません。
とはいえ、姉がしでかしたことは、吉嶋の家に泥を塗りました。母は姉を勘当したいと言っています。
お恥ずかしいことですが、例の財産税で、ウチじゃ戦争が終わってから毎年敷地を切り売りして、ようやく暮らしているんです。経済的にも姉さんと子供3人の面倒は見られません。
ただ、みっちゃんだけは葉山ではなく麻布で預かるようにしますから」
深々と珠子に頭を下げ、政子のほうへ向きなおった直保は低い声で言った。
「姉さん、子供たちのためにと言うなら、仁をここに置いて葉山に帰れ。道子はなるべく早く迎えに行く。
とにかく一日も早くあのゴロツキと別れてくれ。うちにはもう、打ち出の小槌はないんだよ。早く目を醒まして、自分の力で働いてくれ。
あのゴロツキと別れたら道子は返す。別れることが第一だ。
しっかりしておくれよ。それじゃあ」
クリーニング店のガラス戸をピシャリと閉じて、直保は麻布の家に帰っていった。
「よろしくお願いします」と珠子に頭を下げ、政子も、とぼとぼと家路に就いた。
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