【前回の記事を読む】幼い頃、父は「転勤した」とずっと信じて疑わなかった…両親が実は離婚していたと知らされた日、1番ショックだったのは離婚そのものではなく…

私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~

ホバリングを身に付けなきゃ

たくさん撮った写真を頭に焼き付けてまどろむと、Y-3の黒いスーツをはためかせて腕を振った。前回飛んだときは、距離も近いのでスーツを着ないで黒のTシャツで飛んでみた。スピードも出ないし、カーブするときの切れも悪い。でも近場で急がないのであれば、Y-3でなくても飛べる自信にはなった。

今回も雲の中に取り込まれ、意識が遠くなった後に、雲の切れ間から街が見えた。海と船の帆の形の外観が特徴的なインターコンチネンタルホテル、ビルの谷間の遊園地の観覧車が見えてすぐに横浜だとわかった。よし、よし。

通りはかなりの人手だ。想定より早く着いてしまったようでまだ薄暮の時間。日にちは合っているだろうか。前回のタイムリープで、持参のスマートフォンが過去のその日に変わっていることに気付いていた。展望ライブカメラに映りこまないよう画角を気にしながら、ランドマークタワーの屋上に腰を下ろしてスマホを確認する。

土曜日なのだが日付が違う。時計が狂ってしまったのだろうか。でもまあいい、娘が小学生のときも確か同じように週末の土曜日に来た記憶がある。

屋上で十分暗くなるまで時間を潰してから、港に面した赤レンガ倉庫のほうに向けて滑空した。横浜の空は明るい。あまり高度を下げると、大量の米粒のような中の誰かが気付いてしまうかもしれない。慎重に近づいていくと、クリスマスマーケットで賑わう中庭の反対側は逆光となり、街灯も少なく暗がりになっている。

倉庫の複雑な三角屋根の暗いほうに降り、腹ばいになって中庭を見下ろした。二人はひととおり中のお店を冷やかして、マーケットのほうに出てくるはずなのだが。あまりに人が多くて探せそうにない。それからは通りに出て、大きなツリーのあるクイーンズスクエアまでそぞろ歩くはずだ。それからのほうが見つけやすいだろうか。

私は問題をまた一つ発見した。前回もそうだったのだが、飛んで移動していると自分も動いているので地上にいる人が探しにくいのだ。一カ所にとどまって飛ぶ“ホバリング”の技術がほしい。つばめが軒下の巣にいるひなにえさを口移ししたり、はちどりが花の蜜を吸ったりするときにやるやつだ。

何より「てる」を助けるためには、団地の階段を上って玄関から行くのは無理だろう。窓側にもベランダはなさそうだったから、ホバリングをしながら中のようすを確かめる。そのうえで窓を割って助け出すしかなさそうだ。

他に一つわかったこともある。タイムリープの際には、時間と共に距離も超えられるのだ。いわゆるワープだ。物理的には何ら不思議はない。移動しているものが時を超えられるなら、同時に距離だって超えられる。

私は娘の姿を探すことをあきらめて帰路に着いた。今は眠ろう。そして明日はホバリングの技を磨くのだ。

翌日写真フォルダーを見直したら、昨日寝る前に見ていた横浜の写真は五年くらい前ではなく、もっと前のものだった。自分が勘ちがいしていただけだったのだ。時間は少しずれていたが、日付を指定しなくてもタイムリープに成功していたのだ。

 「てる」を助けに行くには、年数はさらに何倍も遡ることになる。そして横浜と比べたら四国は相当に遠い。

それでもタイムリープが、飛ぶことよりさほど難しいわけではなさそうだとわかってほっとした。夢の世界の常識は、現実世界とはちがうのだ。勝手に思い込むのはやめて、夢の世界のルールに従えばいい。