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今日も三十度を超えた。梅雨前なのに真夏の気候だ。
麻田は古いビルの階段を上る。二階は風俗店で、三階に昭和感のあるカフェ・オールドボトルがある。ビルの入り口は表通りに面しており、風俗店のピンク色のスタンド看板がやたらと目立つ。ここを通るとき、麻田は自然と人目を気にしてしまう。麻田の目的は三階だ。
「クマちゃん、こっち」
カフェのドアを開けると、入り口に近いソファ席に由那(ゆな)がいた。由那は麻田を「クマちゃん」と呼ぶ。巨大なクマのぬいぐるみらしい。由那は白に近い水色のデニムに蛍光のライトグリーンのシャツだ。半袖から伸びる腕はすでに日焼けしている。
「昨日、湘南で試合だったの」
腕に注がれる麻田の視線を見て由那が言った。由那は学生の頃からビーチバレーをしている。麻田がアイスヘーゼルナッツラテを注文すると、
「でね、いいこと考えたの。ゴロニャン牧場ってどう?」
ホイップクリームをスプーンですくいながら由那が言った。見た目は清楚系だ。
「ゴロニャン牧場?」
「うん。広い土地に芝生を植えてネコを放し飼いにするの」
由那はネコを四匹飼っている。いずれはネコビジネスをやりたいと言っている。
「保護ネコも引き取れるし」
由那の手元には企画書らしきものがあり、タイトルに「キャットピア」とある。そちらが正式な名前なのだろう。
「しかし、放し飼いで収入になるの?」
「うん。ネコピラティスもやるから」
ネコの柔軟な動きを由那なりにピラティスに採り入れるというのだ。ネコアレンジされた「ハンドレッド」「ティーザー」など、麻田にわからない用語ばかりだったが、由那はおかまいなしに話した。由那からは会うたびに新しい話が出る。