糖尿病に蝕まれながら満月を見上げて、欠けていないと歌い続けた男の強がりと、私の強がりは同じ種類だ。1000年前も今も、人間のやることは変わらない。変わらないのが人間というものだ。救いようがないほど変わらない。
善行を積む理由は幾分も前から消えている。
でも、消えた理由を確認し続けている。消えたものを確認するということは、消えたことを惜しんでいるということじゃないのか。惜しんでいるということは、まだ何かが残っているということじゃないのか。残っているということは、まだ死んでいないということじゃないのか。
死んでいない。
まだ死んでいない。
よかった、と思った。
その次の瞬間にそれが怖かった。
よかった、と思ってしまった自分が怖かった。まだ生きていたいのか。まだここにいたいのか。こんな顔で、こんな部屋で、こんな夜中に、それでもまだ?
それでもまだ、ここにいる。
いていいのか、いなくていいのか、今夜の私には判断できない。
判断できないまま、夜が明ける。
夜が明けたら撮影がある。撮影があったら本山千晴を演じる。演じたら帰宅する。帰宅したら眠れない夜が来る。眠れない夜が来たら本を開く。本を開いても読めない。読めないまま朝が来る。朝が来たら撮影がある。無限ループだ。でも無限ループの外に出た人間を私は知らない。
お前はどうだ?
お前は今夜、泣けたか?
自分が自分だと言えるか?
積み上げてきたものが本当に自分のものだと、胸を張って言えるか?
鏡の中の顔が答えない。
完璧な顔が、ただそこにある。
岩塚玲子が仕上げたこの顔が、この先も。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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